過去から未来へ編
エヴァルタ編
中央大陸にあるエヴァルタの屋敷は近くに街があり。
彼女はよくそこへ出掛けて、買い物をしたりしている。
「〜♪」
鼻唄を歌いながら。彼女は今日は、街にある墓所まで来ていた。毎月通う、といったものでもない。気紛れに、今日はそんな気分だったのだ。
「ふんふふーん♪」
陽気に。スキップなんかもしながら。
墓所の端の端、誰も近寄らない隅っこの区画に。墓石とも言えない小さな石が置かれただけのスペースがあった。
今の管理者に訊いても、記録も残っていない『誰の墓か分からない』場所である。
「来ましたよー。先輩」
小さな丸椅子が置かれている。エヴァルタが用意したのだ。喋り疲れないように。
「やっぱり凄いですね。この世界。今度の『ネヴァン』の問題ですけど、やっぱり私達の文明とは全く違うものでした。サスリカから聞いたんですけど、1万年前に宇宙の果て、遠い別の星から来たんだって」
花を添えて。水を掛けて。
「もしかしたら、そこから私達も派生した可能性もあるかなとは思いますけどね。でも、当のシアちゃん本人は、『一族』じゃ無かったです。先輩のような完全体でも。私を見ても、『翡翠の一族』を知らない感じでしたし。だとしたらやっぱり、あの子の文明が私達のご先祖って訳でも無さそうなんですよ」
楽しそうに語る。嬉しそうに話す。小さな石に向かって。
「…………ひとりじゃないって、言ってましたよ。シアちゃん、クリューさんと結婚しました。式も行きましたよ。綺麗だったなあ。中央と西方で結婚式も違うんですね。私も一度くらいしても良かったかなあ」
エヴァルタは、有名である。元特級ハンターとして。今も街へ降りれば、サインや握手を求められる。
だが彼女の言う『先輩』について、知る者は居ない。
「……まあ、私はずっと独り身ですからねえ。今の時代でも、もう一線を退いちゃいましたし。…………あはは。今更結婚なんて無理ですよ。もし子供が『翡翠』だったらどうするんですか。やっと、全員亡くなって私ひとりになったのに。私は産んじゃ駄目なんです。不死身なんて、悲しいだけ。先輩もよく知ってるじゃないですか」
エヴァルタ・リバーオウル。彼女は旅人だった。その旅は、探求の旅だった。
「はい。今でも鮮明に思い出せますよ。先輩と一緒に、世界を駆け回ったあの日々。あの最初の逃亡劇。皆さんに助けられて国境を越えて。先生やミーシャちゃんと出会って。……もう、どれだけ経ったんでしょう。文明が1回転してますからね。あの頃の地名も何も、何もかも残っていません。でも今になって、未開地から出土してるらしいんです。2000年前の遺物が」
トレジャーハンターという職業は無かった。そもそも今を生きる人間達とエヴァルタは『別種』である。エヴァルタはその体質故に変わらないが、世界が移り変わったのだ。
「1万年前の古代文明には流石に敵いませんけどね。私達の追っていたものは、いずれ全て明かされると思います。それを見届けるまで、私は死ねませんから」
エヴァルタは独りだ。シアのようにこの世界の夫を作り、この世界で生きて死ぬことはできない。その覚悟は、彼女はうんと昔に決めている。
「そう。まだ旅の途中なんですよ。私ひとりじゃないですよ? 先輩も一緒。ふたりの旅はまだ終わっていません。……ねえフロウ先輩」
定期的とは言えない。実際今日は1年振りだった。彼女は気紛れにこの場所に訪れ、近況報告と思い出話をしている。この場所には当然ながら、彼女の言う『先輩』の遺骨がある訳では無い。
「今度、エフィリス君達も式を挙げるらしいです。その次は、リディちゃんかな。これは行かないと。また西方大陸に行ってきます。お土産話、楽しみにしててくださいね」
そこで、椅子から立ち上がった。
「うーん。個人的には、探求者フロウ・ラクサイアの名前は後世に残したかったんですけど。まあ先輩は目立つの苦手だし、良いですかね。私の名前は残りそうなので、それが証ということで」
陽気に手を振って。
「じゃあ、また来ます。ギアさんやエルシャさん、お兄ちゃん達にもよろしく言っておいてください。エヴァルタがそっちへ行くのはもう少し掛かるって」
鼻唄を歌いながら。エヴァルタは帰路に着いた。
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