②自由

「エフィリス! 剣術教えてー!」

「おう良いぜ。……ミリシア! お前もやるか?」


 ギルドへ届け出(マルの指示)をして、エフィリスは長期休暇中であった。孤児院で子供達の面倒を見ながら、妊婦のマルと過ごしている。トレジャーハンターに憧れる男子からは絶大な人気を誇るエフィリスであったが。


「………気持ち悪い」

「!」


 女子――主にマルと同年代の少女からはゴミを見るような目で見られ、蔑まれていた。


――


「マルー。お昼ご飯」

「ラータ。ありがとう。ミリシアも」


 マルの部屋へ、彼女達が入ってくる。一緒に食事を摂る為だ。


「えーっと、お茶お茶」

「駄目駄目。マルはじっとしてて。ウチらがやるから」

「……はーい」


 彼女達は、院では年長組である。そろそろ働き先を見付けて、巣立つことを考える時期である。早ければ15歳から。遅くとも成人までには出なければならない。孤児院は裕福ではなく、年々子供達は増えていくからだ。自分達を育ててくれた院に迷惑は掛けられない。


「しっかしマルがねえ。あの、いつも隅っこに居たちっちゃな子が。ウチらの誰よりも早く出て、トレジャーハンターなんかになって。しかも妊娠して帰って来るんだもん」

「あはは。わたしも大概好きなことやってるよね。院長先生には悪いけど、他に行く所も無いし」

「ウチらは良いよ別に。またマルと暮らせて嬉しいし。……ミリシアは、ちょっと複雑かもだけど」

「なんで?」


 マルがエフィリスにスカウトされる以前は、彼女達は特に仲が良い訳ではなかった。つい最近なのだ。こうして話すようになったのは。


「だって……。どう見てもおじさんじゃん。あんなのがマルを……って。ほんと気持ち悪い」

「えー」


 ミリシアはエフィリスに対して嫌悪感を抱いていた。理屈はうまく説明できないだろうが、生理的なことだった。


「ミリシアね。実はちょっと、エフィリスのこと気になってたんだよね」

「え。そうなの?」

「…………いや、昔の話よ。別に今はなんとも」

「昔って。それもう赤ん坊じゃないの」

「うるさいわね」


 エフィリスとマルのことは、孤児院の全員が認めている訳では無い。不満や不快感は、主にエフィリスへ向けられている。それも分かっているマルは、申し訳なく思っているのだ。


「でもね、自由だから」

「?」


 マルは、彼女達と違っている点がある。それは既に、孤児院の『外の世界』を知っているということ。トレジャーハンターとして未開地へ行き、銃を持ち、怪獣を討伐している。敵対組織とあれば人間でも撃ち殺し、大人相手に大立ち回りを演じる。特級ハンターとして、その実力は非常に高い。


「国とか法律とか周りなんて、一切気にしない。気にならないの。だって一歩未開地へ踏み込めば、『人間』の手なんて届かないんだから。トレジャーハンターはね、自由なの。わたしが自由に、エフィリスを好きになったの。想いを伝えたら、応えてくれた。時間は掛かったけどね。それだけ。誰かが文句を言うのも自由だけど、そんなんじゃわたし達は止められない」

「…………」

「…………」


 冒険から帰ってくる度に、マルは成長している。彼女達はその度に、マルを見直すのだ。身体こそ一番小さいが、何故だか一番大きく見える。大人に見える。未開地で命を懸けた冒険をしてきたマルの言葉は、彼女達に強く語り掛ける。


「……マルは凄いなあ」

「え。そうかな」

「うん。凄い凄い」

「いやいや。ラータの方がお手伝いも上手いし、ミリシアはとっても美人だし。わたしが凄い所なんて」


 だからこそ。

 そのマルを『汚した』男に嫌悪感を抱くのだろう。ミリシアはそう解釈した。


「ウチらはずっと味方だからね。マル」

「えっ。うん。ありがとう」

「だからあいつになんかされたらいつでも言ってね」

「……う、うん。別になにも、無いけど」


 引っ括めて。

 マルはこの生活に幸せを感じていた。

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