番外 旅の終わり編

①さよなら

「じゃあ、ここでお別れだな」


 シアを連れて、ガルバ荒野での冒険を終えて。ルクシルアまで全員で帰ってきた。ここは、あの美術館のある街だ。全ての始まりの街。

 その、美術館の前でエフィリスが皆に告げた。


「俺はこのまま美術館に寄って報告だ。市長も同席らしい。マルは」

「うん。わたしは先に孤児院へ。後でエフィリスと合流するけど。サーガは?」

「私は、エフィリスがうるさいのでローゼ帝国に帰りますかね。住所を渡しておきますので、式には是非呼んでくださいね。クリュー殿」

「ああ。……エフィリスのチームは解散か」

「そうなるな。俺はまたひとりだ。ま、そもそもひとりでやってたし、問題は無えけどな」


 旅は終わった。片腕を失ったサーガと、妊婦のマルはトレジャーハンターを引退である。


「オルヴァリオとリディはこのままギルドか?」

「ああ。やっぱりギルドに登録したい。リディとも話してな」

「まあ、やりたいことやるのがトレジャーハンターでしょ。あたしは良いわよ別に。でもラビアのギルドじゃなくて良いの?」

「良いんだ。俺は生まれは中央だし。やるならエフィリスの居るルクシルアが良い。なあ。俺が特級になったらチーム組んでくれよ」


 オルヴァリオは、とても清々しい表情をしていた。これではリディも何も言えないだろう。


「おう。期待して待ってるぜ」


 エフィリスも笑顔だった。どうあれ正式に、後輩となるのだ。嬉しくない訳が無い。


「……で、お前らはラビアだな」

「ああ」


 そこで、クリュー達を見た。クリューと、シアと、サスリカを。


「俺達も館長に挨拶しようかと思うが」

「いやあ要らねえよ。シアを研究しないってのも俺が国際政府に飲ませた要求だしよ。シアはもう一般人だ。『元グレイシア』じゃねえ」

「…………そうか」


 彼らは、これからラビア王国のクリューの故郷へ帰る。サスリカはクリューの使用人として。シアは、クリューの妻として。


「本当に100億、払わなくて良いのか?」

「はあ?」


 クリューはエフィリスに訊ねた。そもそも、『氷漬けの美女』を買うつもりだったのだ。そして、その金は今彼の手元にある。


「俺はネヴァンじゃねえから、人身売買なんざしねえよ。言ったろ。解けた時点で『トレジャー』じゃねえの。シアが自分の意思でお前に嫁ぐんだ。ていうか嫁いだ所でお前の『所有物』でも無えよ」

「…………分かった。エフィリスがそう言うなら」


 クリューは義理堅い男だ。エフィリスに対して感謝している。そしてそれは、彼女も同じ。


「エフィリスさん」

「なんだよ」

「……私を見付けてくれて、ありがとうございました」

「!」


 ぺこりと。深々と頭を下げた。現代人である彼らが見たこともない角度である。それはシアの常識――『池上白愛』の居た世界では、なんら特別ではない『お辞儀』。


「……気にすんな。クリューと幸せにな」

「はいっ」


 さらりと、エフィリスは受け取った。


「で、サスリカもクリューん家か」

『ハイ。リディ様に付いていく案もあったのですが』

「あー駄目駄目。古代人のシアでも直せないんだから、もうこれ以上危ないことさせられないわ。あんたはもう大人しくしてなさい」

『……とのことです』

「なるほどな」


 ここで。お別れである。それぞれ、別の道へ。


「じゃあ、次はクリューとシアの結婚式だな」

「ま、そうなるな」

「あれ、エフィリスとマルは結婚しないの?」

「…………ルクシルアではね。結婚は20歳からなの」

「………………ほんと、エフィリスって男としては最低ね」

「ぬぐっ……」


 そんな、リディの放った締まらない言葉で。


「んじゃ」

「ああ」

「楽しかったぜ」

「またな」

「では」

「うん」

「さよなら」

『ハイ』


 彼らの冒険は、一旦幕を下ろした。

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