第5話 主人公-5

 「じゃあ、次、守備テストしようか」高松

高松の指示で四人がサードに集まった。

「とりあえず、内野ゴロのテストして、それから、恵理奈、外野のテストにしよう」高松

「はい」恵理奈

「あたしも、外野でいいですよ」あゆみ

「あ…、そう。じゃあ、あとで」高松

「あたし、どうしよう」しのぶ

「とりあえず、両方受けてみたら」あゆみ

「ぅん。そうしておく」しのぶ

 高松の打つボールに涼子は軽々と飛びついた。今度は涼子が注目を集める番だった。軽い身のこなしで涼子は次々とボールを捌いていった。

「すごいね」亮

「おまえより上手いんじゃないの」山本

「うるせい」木村

 涼子が終わると、恵理奈がポジションについた。涼子ほどではないが、練習をこなしているだけあって恵理奈も結構上手だった。次に呼ばれたしのぶは、緊張したまま、身動きできなかった。転々と通りすぎたボールの後を追いかけるのが精一杯で、自分の前に打ってもらったボールをようやく取れただけだった。

 がっくりして引き下がると、朝夢見がポジションについた。皆の注目が集まる中で、すっと朝夢見は身構えた。その姿の美しさに全員が見入ってしまった。打球が朝夢見に向かって飛んでいった。朝夢見は、さっと身を翻し、ボールを捌いた。それは一球だけではなく、次々と飛んでくるボールを次々と捌いていった。軽やかなフットワークに、しのぶはいつの間にか見とれていた。高松が息切れをしているのに、朝夢見は平然としたまま、ノックを終えた。朝夢見は何事もなかったかのようにしのぶの元へ戻ってきた。

「…すっごい」しのぶ

「なにが?」あゆみ

「だって、あゆみさん」しのぶ

「やるね、あんた」リョーコ

「?」あゆみ

 外野に回った恵理奈と朝夢見に打球が飛んだ。今度も朝夢見は平然とボールを捌いた。恵理奈も上手かったが、それが目立たなくなってしまうほど、朝夢見の動きは無駄がなくきれいだった。



 「さぁ、それじゃあ、バッティングしようか」高松

四人をホームベースに集めて高松はそう言うと、小林を指名した。

「おい、投げてくれないか?」高松

「はい。わかりました」小林

「あ、アタシ、投げます」サンディ

「いいよ、サンディ。僕が投げるよ」小林

「そうだよ。サンディじゃ、手加減するかもしれないじゃないか。女同士だから」山本

「そんなコト、しません」サンディ

「まぁ、いいよ。小林、適当に相手に会わせて投げてくれないか」高松

「はい」小林

小林がマウンドに上がり、池田がキャッチャーに座った。軽くウォーミングアップしているボールは、風を切ってうなりを上げてミットに響く。しのぶは怖いと思いながら、朝夢見に寄り添った。ふと見ると、朝夢見は平然とした顔でしのぶの顔を見つめている。

「怖くないの?」しのぶ

「なにが?」あゆみ

きょとんとした顔で朝夢見は応えた。しのぶは、その時ようやく、あゆみさんってすごい、と実感した。

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