第2話 主人公-2



 朝夢見に連れられてグラウンドに行くと、そこにはいつもと同じように、打球の音と掛け声が飛び交っていた。しのぶは、なんだ、と思いながら近づくと、マウンドに金髪の少女が立っているのを見つけた。少女は、肩までのびた髪を振り乱してボールを投げていた。そして、打席には、小さな、小学生のような男の子が、長いバットを振り回している。打球が飛んだ先には、これもまた長い髪を束ねた少女が、土煙を上げて打球に飛びついた。

 しのぶは、その光景に惹きつけられてネットを掴んで見入ってしまった。ひい、ふう、みい、三人の少女が混じっている。しのぶは、次第にわくわくしていた。

 ベンチに腰掛けて見学していると、ますます気持ちは昂ってきた。グラウンドを駆け回る選手たちの活気は、前に見た野球部と同じか、むしろ、活発なくらいだった。その中に、少女が混じっていることが、一層しのぶの気持ちをかき立てた。

 練習が終わって選手が戻ってきたとき、キャプテンの高松が全員を集めて、しのぶを紹介した。

「え、今度、わが愛球会に入会してくれる、岩崎しのぶ、さんです。二年…何組だっけ」高松

「A組です」しのぶ

「だそうです。どうぞ、自己紹介を」高松

「はい。えー、岩崎しのぶ、です。スポーツは、やったことがないんですけど、よろしく、お願いします」しのぶ

「なんだ、また女か」山本

「山本、いいじゃないか」高松

「だけど、新入会員は、女ばっかりだよ」山本

「いいじゃない、好きなら」亮

「そうよ、そうよ。文句あんの?」リョーコ

「べつに…」山本

「よろしく。あたし、朝霧涼子。二年F組。あたしも最近入ったとこなの」リョーコ

「あたし、桜井恵理奈です。一年C組です。前は、陸上部だったんですけど、辞めてここに入りました。あたしも、つい最近入ったんです。よろしく」恵理奈

「ハイ、サンディです。ヨロシク」サンディ

「はい、よろしく」しのぶ

「そっちのも、入んの?」山本

山本が朝夢見を指さして言った。朝夢見に注目が集まり、朝夢見は自分を指さしながらきょとんとしていた。

「あたし?」あゆみ

「入ろうよ。ね」しのぶ

「んー、どうしよう」あゆみ

「いいじゃない、入れば」小林

「そうだよ、多いほうがいいよ」亮

「入ろう」しのぶ

「んー、じゃあ、入ります」あゆみ

「やったぁ」しのぶ

「……なんだ、また女か」山本

「山本、文句は、大きな声で言えよ」中沢

「いいよ、女でも」山本

「そうだよ、人数が増えりゃ、紅白戦もできるし」池田

「………下手っぴが増えても、ムダなんだけどな」山本

「なんだ?」高松

「いえいえ。なんでも、ありましぇーん」山本

「よぉし、一気に二人増えた」高松

「けっこう、可愛いね。二人とも」中沢

「年上のお姉様ばっかり、ってのも、いいね」木村

「ね、じゃあ、テストして、新しくレギュラー決めなおそうよ」リョーコ

「え、どうしてぇ?」山本

「だって、あたしたち、後から入ったっていうだけで、補欠なんて変だよ。新しくスタメンを入れ替えようよ」リョーコ

「そんな必要ないよ、な」山本

「いや、まぁ、どのくらい上手いのかテストも必要だし、上手かったら、入れ替えも考えよう」高松

「さんせーい!」リョーコ

「なまいきなヤツ」山本

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る