第3話「魂交代」
推しの突然の言葉に視聴者は誰もが驚きを隠せなかった。何故、突然? なんで辞めるのか? 理由は? 多くの視聴者が疑問をストレートに投げかける。だが、彼女はその理由を「他にやりたい夢がある」とだけ言い、多くを語らなかった。
実はVtuberの中の人は元ニコ生出身者が多く、登録者の多い有名な子は元実況者さんだったりする。他にも声優志望、元声優の子などもいる。素顔を晒しているユーチューバーと違い、Vtuberは身バレを防ぐ役割もあるので、彼女が引退理由をここで具体的に説明してしまうと中の人が誰なのか特定されてしまう恐れがある。視聴者の多くはそれを知っている事もあり、彼女にそれ以上聞けなかった。いや、あまりにも突然の告白に驚きが強く、質問まで頭が追い付かないというのが正確だろう。
刻々と日々がいたずらに過ぎ、遂に魂交代が行われることになった。魂交代とはVtuberを演じる中の人(俗に言う演者さん)が別の人に変わる事を指す。よく似た例として、アニメの声優交代があるが、Vtuberが魂交代をすることとは訳が違う。
アニメの声優交代はよくある話だ。声優さんが体調不良、引退、死去……等々の理由が挙げられる。国民的長寿アニメでもある「サザエさん」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」は声優さん側も高齢なので引退、交代などは世間的にも大きなニュースとなったのはご存じの通りだ。アニメは台本がある。台本のセリフを音響監督などの要望に沿ってキャラクターを演じていくのが声優の主な仕事だ。
ただ、Vtuberはアニメキャラクターというよりも、アバターだといえる。台本なんか最初からないこともあるし(大きい会場でやる場合は別)演者さんの性格や個性、溢れ出る人間臭さがVtuberの面白さ・醍醐味だと個人的には思っている。
演者さんが交代するということは、これまで積み重ねた思い出が全て消えてしまうという事だ。魂交代は彼女だけに限らず、当時、有名な某Vtuberグループのメンバーが予告なく魂交代したことでファンが驚き、その理由が事務所による不当な扱いだという事で散々叩かれた。その影響もあって、V界隈では今でも魂交代はタブーとされている。
炎上を避けるため、近年では魂交代は行わず、引退・卒業という形式が増えた。その中には契約解除などもある。引退した彼らはYouTuberになるケースもあれば、前世を隠して別モデル・別名義でデビューもある。だが、声が似ているなどのネットに潜む特定班によってすぐ特定されるだろう。再炎上するケースもあれば、炎上することもなく、のんびり頑張っている人も。
悲しみの日々を送る中、Twitterを漁っていると、同じように悩み苦しむ同志の一人を見つけた。推しの彼女に最後のお別れの寄せ書きを出そうとTwitterである提案を出していた。某サイトで記入すればいいとのことで、どういう方法かはわからないが、寄せ書きは確実に彼女の手元に届くらしい。筆者はそこで感謝の言葉の後にこう書いた。
「俺の中の○○は君だけだ」
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