第2話「Vにハマったきっかけ その2」

様々な情報を調べる中、ある番組にたどり着く。2018年の1月2日に放送された「NHKバーチャルのど自慢」である。




その番組ではキズナアイ、ときのそら、ヒメヒナ、月ノ美兎、ぽこピー、樋口楓、富士葵、ミライアカリ、YuNiちゃんなど大勢の有名Vtuber達が

歌い、トークし、彼女たちの魅力や個性を堪能することができた。正直、この時はV知識がほぼゼロに等しい状態だったので、見かける方々はほぼ初見だった。でも、雰囲気は掴めた。この子達は面白いし、歌も上手いなと驚きと新鮮さを感じていた。




その後、2019年1月に放送された「バーチャルさんはみている」という番組を視聴。人気Vtuberさんが30名以上出演するという他に類を見ない番組で、ギャグあり、トークありという、かつてのドリフを思わせるようなコメディ番組だ。




ただ、身内ネタが多いなど世間からは酷評されてしまい、少々黒歴史化してしまっている。今ではVtuberも知名度が強くなり、芸能人とコラボしているTV番組も多々あるが、この時代はVtuberという存在はまだ異色で番組自体に否定的な向きがあったのではないだろうか。




だが、そんな批判など筆者からすればどうでもいい。周りがどう思うが、世間的に不評だろうが、自分が面白いと思ったものには、いつでも全力投球してきたいという信念だ。周りがクソゲーだと酷評しても一体、どうクソゲーなのか? 何がそんなに面白くないのか? どこがダメなのか? 良い部分はないのか? そういう分析をしたい欲求に駆られるタイプなのだ。




筆者はこの番組がきっかけで電脳少女シロちゃんの可愛さにやられてしまった。他にも番組に出演している気になったVの子をYouTubeでチャンネル登録し、動画を見に行くようになる(現在は生配信の人が多いが、この時代は動画勢が主流だった)





また、後に「ニコニコ超会議2019」にて「バーチャルさんがいっぱい スペシャルバーチャライブ」が行われ、筆者は現地に行けなかったものの、ネットチケットを購入してニコニコ動画で配信を視聴。個人的に初めてのVtuberさん達による大型ライブ。配信とはいえ、臨場感は強く、いつのまにか泣いていた。それは筆者にとって忘れられない思い出となった。









さて、最愛の推しの彼女は毎日動画以外にも、たまに生配信をするようになっていった。先ほども書いたが、かつてVtuberは動画勢が多かった。ただ、動画は手間暇がかかるし、技術がないと勝負するのは難しい。そこで現在はライブ配信動画(生配信)をする人が圧倒的に多い。動画勢は少数派となっている。




ライブ配信の場合、視聴者はコメントを自由に書くことができ、最推しの彼女はできる限りコメントを読もうと努力し、筆者のコメントも拾ってくれて可愛い反応をくれる。大手箱(にじさんじ、ホロライブなど)では視聴者が多すぎることもあって毎回コメントを拾ってもらうのは非常に難しい。拾ってくれたらラッキーというレベルだ。だが、彼女は大手箱に比べればチャンネル登録者・視聴者はまだ少ないのもあって、まだコメントの流れが速くないのもあり、丁寧に拾って反応を返していく。これが筆者には斬新な出来事であり、衝撃的で、ますます彼女にハマっていくことになった。




例えば、アイドルのコンサートやライブに行って、楽しんだとする。帰宅してから、TwitterやSNS・ブログ等で感想を書く。同じファンやフォロワーは反応するだろうが、当然、推し本人が直接反応することはまずない。プレゼントや手紙を出したとしてもお礼や返事は絶対来ない。それはアイドル達が冷たいということではなく、何十、何百万人といるファン一人一人に反応を返すのが物理的に難しいからだ。ファンもそれを心では理解しているが、やはり反応が欲しいと思うのもファン故にあるものだろう。




今までのアイドルとファンには一定の距離・壁というものがあった。どちらも気持ちが一方通行であり、交わることは決してない。会う事のできるアイドルもそれ以上の壁を縮めることはできなかった。露骨な塩対応も非難されているし、そもそも会えることを利用し、アイドルに危害を加える事件も実際に起きた。コロナ過の昨今では人と会うこと自体、難しくなっている。緩和されつつあるが、まだ完璧とは言い難い。しかし、VtuberとファンはYouTubeという動画共有サイトを通じて、その距離を更に縮めることに成功した。




その一つが、一定の条件を満たした配信者かつ、生配信している時限定の機能、スーパーチャット(スパチャ)という、所謂、投げ銭機能だ。普通にチャットをするよりも目立つように色が付き、メッセージを送ることができる。色は金額によって変わり、高い金額になれば目立つ色になるので、他の視聴者に差をつけることができるだろう。投げ銭というと、筆者からすれば、路上でギターを弾く若人の前にお金を入れる帽子があって、そこに小銭、もしくは千円を入れる。そんな光景がそのままオンラインでできるようになったイメージである。




このスパチャに反応するか、しないかはVtuberさんによって変わってくる。全く反応しない人も当然いる。中には、スパチャをしたら「○○さんありがとう」とお礼を言い、書かれたコメントをきちんと読んでくれる人もいる(或いは名前呼び無しでお礼だけを言う人も)配信中は反応せず、配信の最後にスパチャ読みコーナーを設け、そこでまとめて名前と内容を読んでくれる人もいる。中には配信に体力を全振りするからどうしてもスパチャ読めないからごめんね~という配信者も……。




スパチャを投げる理由は人それぞれ。多くはこの推しを応援したい、大好きな気持ちを送りたいという所だろうか。他にも、単純に配信内容が面白かったから投げたという人もいるし、推しに自分を認知してほしいから投げる人もいる。中には借金して投げる人もいるようだが、投げ銭はほどほどに。あまりに酷いコメントはスパチャであっても削除するVtuberさんもいるので、メッセージ内容は配信者に不快を与えないよう注意が必要だ。




筆者の場合、推しの彼女に認知されることが嬉しく、スパチャコメントを読んでもらえるのは望外の喜びがあった。以降も生配信にはできるだけ参加した。動画も必ず見てコメントを残した。彼女はTwitterも開設しており、コメントをつけるとたまにリプ返してくれたり、いいねをくれた。彼女の呟きにはいち早く反応するよう気を付けていた。






そんなある日の事。

バイトに向かう途中、彼女がゲリラ配信をしていた。しかも今回はイリアムというYouTubeとは別の配信サイトである。実はYouTube以外でも配信サイトは複数存在し、そちらで実況する人も増えている。彼女は以前、イリアムでも配信するよ~と言っていたのを覚えているが、今回行うとはTwitterには書いていなかった。




イリアムはどちらかというとお喋りに特化したサイトで配信者はVtuberと同じくアバターを使い、お話するだけ。YouTubeと同じく投げ銭機能があるが、スパチャとは違い、演出の入ったギフトをプレゼントすることができる。しかし、イリアムはYouTubeと違い、自由度が少ない。配信者のトークテーマがよほど面白い、歌または声が良いなどの個性がない限り、毎回聞こうとはほぼ思わない。



またアーカイブも残らない為、仕事や学校などで時間の都合が取れなかった時は辛いだろう。次に聞いたときは以前の会話の内容がわからず、話についていけないという人も出てくる。また、視聴者の中には配信者の同業者もいて、視聴者そっちのけで同業者と内輪ネタばかり話すことも。これでは視聴者は蚊帳の外だ。そういうのは裏でやれと言いたくなったものだ……だが、言えば喧嘩になることが火を見るよりも明らか。何も言わずに登録を消し、Twitterフォローも消しておいた。




イリアムをやっているのはほとんどが普通の人達がほとんどなので、筆者から言わせればVtuberごっこをしている人達が集まって、ただお喋りしているだけという印象が強い。いくら声がよかったとしても面白い話がそうそう幾つもあるわけではなく、毎回のトークはぐだぐだになることも多い。それでは好きになれるわけがない。深夜に声優ラジオを数多く聞いてきた筆者にはそれがどうしても許すことができなかった。個人的に相性が悪いアプリだと言えるだろう。




だが、推しの彼女が話すなら話は別だ。ラジオ代わりにでも聞くかと思い、通行に気を付けて歩きつつ、軽い気持ちでイヤホンをスマホに付けていつものようにコメントを打つ。




和やかなトークが始まり、楽しい時間が過ぎていく。

だが、推しの彼女は唐突にこんな言葉を言う。




「あのね、私、卒業するんだ……」




俺は足を止めた。




え、今、なんつった?




卒業するだと?

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