初白小鳥2

 初白は夢を見ていた。

 夢の中で小さな自分が泣き叫んでいた。

 ごめんなさい、ごめんなさい。私がワガママだったから。いい子になるから、どうか、どうかあの人を……。

 初白はギュッと布団を抱きしめる。

 こうして体を何かが覆っている間だけは、まるで自分と世界が隔てられているようで少し気が楽になる。

 うっすらとまぶたを開けた時、時計が見えた。

 一瞬にして初白は血の気が引いた。

 ――しまった。

 すでに時刻は十七時。結城に料理を作る約束だったのに。


『―――!!!!』


 頭の中で怒声が響く。


「……うっ」


 布団の中で身をすくめる。

 やってしまった。罪悪感が頭の中をグルグルと駆け回る。いっそ、このまま消えてしまいたかった。


「とにかく、起きないと……」


 自分が消えたところで、相手が自分に寝過ごされた事実がなくなるわけでもない。

 起き上がろうとするが昨日以上に体が重かった。どうやら、三日目にして本格的にこれまでの疲れが出たらしい。

 なんとか体を起こすと、テーブルにコンビニの弁当が置いてあることに気がついた。丁寧に割り箸もついている。

 ノートを切ったメモが添えられていた。


『この鮭弁当、めっちゃウマいからオススメ』


「……」


 ああ……。優しいなあ。

 さっきまで波打っていた心が静かになる。


「……いただきます」


 初白はコンビニ弁当のふたを開けて食べ始める。

 弁当は無機質な量産品だし少し冷たくなってしまっていたが、一口ごとに胸の奥のほうが温かくなった。


「ありがとうございます。結城さん」


 その温かさに涙が出そうになる。


「……うん、しい」

 久しぶりに食べものを美味しいと思って食べたかもしれない。


「私も、結城さんになにかできないかな……」


 昨日から色々としてもらってばかりだ。


「……うん」


 初白は弁当を食べ終えると、立ち上がって台所に歩いて行くのだった。

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