第10話 帰宅
「そろそろ帰るね」
結局、優奈は夜遅くまで優奈は居てくれた。
「あ……じゃあ、送って」
「病人が何言ってるの」
「いや、でも……こんな夜遅くに一人帰らすわけには……」
「大丈夫だよ。家近いし、いざとなったら防犯ブザーがあるから」
「防犯ブザーて」
小学生並みの防犯意識
泊まり、という選択肢は浮かびはしたが口には出来なかった。
「とにかく、心配しないで。私は大丈夫だから」
熱でぼーっとした頭ではいい案が浮かばず、そのまま帰宅する流れになる。
玄関で、改めて優奈に頭を下げた。
「本当にありがとう……その、色々と」
「ううん、どういたしまして」
「この礼は、後日何かしらの形でするから」
「い、いいよいいよそんな」
ぶんぶんと、優奈が手を振る。
「私がやりたくてやってるだけだから、気にしないで本当に」
気にしないでと言われても……。
昨日の一件といい、ここまで色々してもらって「ありがとう」だけで済ますのは流石に申し訳が立たない。
日を改めて、何かしらお礼をしよう。
「とにかく、今夜はゆっくり休んで。お粥の残りも冷蔵庫に入れておいたから、明日の朝チンして食べてね」
「神様かな?」
「大袈裟だよー」
照れ臭そうに頬を掻く優奈。
そのあどけない仕草に、不覚にもドキッとしてしまう。
「それじゃ、おやすみ秀人くん」
「ああ、おやすみ優奈」
優奈が帰った後、言いつけ通り布団に潜り込んだ。
部屋に再び静寂が舞い降りる。
寂寥感が到来する。
でも、優奈が来る前に感じた死にたくなるような孤独感は、無かった。
◇◇◇
「……大丈夫かな」
秀人くんの家を出て、私は呟く。
正直、このまま帰るのが不安だった。
朝までそばにいてあげたいという気持ちはあったけど、流石に言い出せなかった。
それは、いけない気がしたから。
……秀人くんの看病を敢行したのは勢いだった。
今朝、秀人くんが風邪で休んだと担任の先生が言って、私は心臓を掴まれたような思いになった。
3年も付き合っていた恋人を事故で亡くして、平気なはずがない。
むしろ、昨日学校にこれたこと自体が奇跡に近い。
秀人くんは一人暮らし。
今頃ひとりで、苦しんでるんじゃないか。
辛い思いをしているんじゃないか。
そう思うと、居ても立っても居られなくなっていた。
気がつくと、足が勝手に動いていた。
案の定、秀人くんはボロボロだった。
常に朦朧としていて、ぼーっとしていて。
まるで生きる気力が感じられなかった。
お粥を食べて少しは元気が出たみたいだったけど、多分気休めだ。
私の腕の中で静かに涙を流す秀人くんを見て。
彼の心に刻まれた傷は、途方もなく深いんだって思った。
「なんとか……してあげたいな」
傷ついた彼を助けたい。
私の大好きな親友の、この世でいちばん大切な人を救ってあげたい。
その一心だった。
……でも、だけど。
ふと、思うことがある。
私の行動は正しいのかって。
私の秀人くんにしていることは親友に対する、裏切りなんじゃないかって。
そんな罪悪感を、抱くことがある。
“──ひーくんのこと、お願いね”
親友の声が脳裏をよぎる。
歩みが止まる。
頭の中をリセットするように上を向くと、星の見えない夜空が無言で私を見下ろしていた。
「これでいいのかな、えっちゃん……」
ぽつりと呟かれた言葉は、誰にも聞かれることなく空気に溶けていった。
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