第2話 奇跡が起きた翌日
クラスメイトの音羽優奈のイメージは『大人しい・目立たない・地味』という陰キャ属性3コンボで、中学時代にそれらの属性をフルコンボしていた俺が親近感を覚えたことがないかと言われるとそれは嘘になる。
多分、俺以外のクラスメイトも優奈に対しおおよそ同じイメージを持っているのではないだろうか。
そんな彼女と、お悩み相談アプリで繋がるというミラクルを起こしてしまった翌日。
「今にも死にそうな顔してるな、秀人」
昼休み。
友人の上原 柚月(ゆづき)が、机に突っ伏す俺に話しかけてきた。
「顔は見えないはずなのに表情を読めるとは、さてはお前透視能力持ちか!?」
「アホ。1時間目から今までの顔色を見ての感想だ」
言って、柚月は俺の机に弁当箱を広げ眉を顰める。
「お前、昼は?」
「あっ……やべ、忘れてきた」
「こりゃ相当、ダメージ喰らってんな」
柚月が息を吐く。
柚月は俺が恵美と別れたことを知っている。
というか、このクラスの全員が知ってるんじゃないだろうか。
学年一の美少女の影響力は絶大である。
だから柚月は、気を遣ってくれてたんだろう。
「やるよ」
「いいよ、そんな」
柚月に差し出された1000円札を戻す。
「いいから貰っとけ。購買で好きなパンでも買いまくって、さっさと調子を戻すこった」
「……柚月」
友人の心遣いに、うるっとしてしまう。
ついでに手を差し出す。
「なんだ、その手は」
「好きなパン全部買いたいから、あと野口さん5人ちょうだい」
「アホ、調子乗んな」
黙々と、柚月が弁当をつつき始めた。
「ああっーー、それにしてもやっちまった!」
「何がだ」
「弁当だよ弁当! せっかく作った弁当をまさか忘れちまうなんて!」
「そう思ってるんなら、明日からはしっかり……いや、まあ、気をつけろよ」
神妙な面持ちで柚月が言う。
やっぱり気を使わせちゃってるなと、申し訳なくなった。
「購買、行ってくるわ」
「おう」
立ち上がると、
「お前さ」
柚月が箸を止めて、言った。
「あんま、無理すんなよ?」
無愛想な柚月なりの、優しい言葉なのだろう。
「……ああ、わかってる」
とは言ったものの、元カノである恵美の机を見やって、心がずんと重くなった。
彼女と別れたショックは、まだ盛大に尾を引いているようだ。
◇◇◇
「「あっ」」
購買でパンを買い途中、あるクラスメイトとばったり遭遇した。
音羽優奈である。
平均よりも少し低めの背丈。
肩の辺りまで伸ばした黒髪。
目元までかかった前髪に赤縁のメガネ。
よくみると目鼻立ちは整っていて、吸い込まれるような不思議な魅力を纏っていた。
優奈は、俺との邂逅に明らかな動揺を見せていた。
ここは男の方から会話を切り出さねばと、口を開く。
「こ、こんにちは、ユーナさん」
あ、やべっ。
ついハンドルネームの方で呼んじまった。
「ちょっ、秀人くん、ここではその名前はしーっ」
案の定、優奈は人差し指を手に当ててわたわたする。
もう片方の手には、ピンク色の可愛らしい風呂敷に包まれた弁当箱を持っていた。
「ごめんごめん、音羽さん。つい」
「気をつけてね、もー」
ぷくりと、音羽が頬を膨らませる。
「今からお昼?」
「うん、今日お弁当だから」
「教室で食べないの?」
「私、その……クラスに友達いないから……」
「あっ、あー……」
自分から余計気まずくしてどうすんねん。
非リアになって、コミュ力まで非ずになってしまったのか。
空気を変えなければと、唯一の接点である話題に切り込む。
「昨日のことなんだけど……」
「久山くんっ」
俺の言葉を音羽が遮って、
「あの、さ」
ちらりと、俺の持つパンたちを見やってから、音羽は言った。
「お昼、一緒に食べない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます