4問目:白 / 黒 ②
☆☆☆☆☆☆☆☆
「よう、お邪魔するぜ」
「あぁ、よく来たな。どうぞ上がってくれ」
時間は十七時を少し過ぎ、件の白柳先輩が我が家を訪れた。
身長は百七十後半といったところか。ユウと同じくらいの高さにみえるが、しかし身体つきはそんじょそこらの運動部よりもしっかりした肉付きをしているようだ。
「せんぱーい、何か運動とかしてるんですかー?」
「うぉぉ! なんだこのツインテーっ子は! お前の妹か!?」
ユウの背中にこっそりと隠れていたあたしの登場に、白柳先輩は男子からぬ甲高い驚き声を上げる。
普段ストレートに背中近くまで髪を伸ばしているあたしだが、今は気分でツインテールに結んでみた。気まぐれなおしゃれは女の子の特権なのである。
「あぁ。名前は真希。俺の妹だ」
「そ、そうか。俺の名前は白柳比呂。兄ちゃんと同じ三年生だ。よろしくな」
「一年生の黒崎真希です! よろしくお願いしまーす」
「さて、それぞれ簡単な自己紹介も済んだところでいつまでも玄関にいるわけにもいかないだろう。真希、今にケーキを持ってきてくれ」
「はーい。白柳先輩、チョコとモンブランどっちが好きですか?」
「ケーキ? え、いいのかよ祐一。俺お返しなんて持ってきてねぇぞ」
「気にするな。俺と真希が食いたいと思ったから買っただけだ。ついでの比呂の分が一つ増えたところで大したものでもない」
「って言ってますけどー。お金払ったのあたしですからねー!」
たかがケーキ一つに一挙一動する白柳先輩を可愛いなと内心笑いつつ、あたしは冷蔵庫にしまってあるケーキを今に運ぶ。
あたしの分がショートケーキで、ユウと比呂先輩がチョコとモンブランをそれぞれどちらかに。
個人的には季節のタルトってのが気にはなっていたんだけどついついショートケーキの上に乗るイチゴに目を惹かれてしまった。何を隠そうあたしはイチゴが大好きなのだ!
「おまたせー、って誰もいないじゃんか」
お皿に分けては今に運んだあたしだが、そこにユウと白柳先輩の姿はなかった。
ふと、二回のユウの部屋から物音が聞こえた。
そういえば、今日はユウに用事があって白柳先輩は家に来たんだっけ。
「って言ってもすぐに降りてくるでしょ。そうだ、飲み物も用意しとくとしますか」
あたしとユウの飲み物はともかく白柳先輩は何を用意しようか。
部屋に聞きに行くのもいいけど、せっかくだし予想して出してみようかな。
紅茶でもいいしコーヒーでもいいし、嫌いだってなった場合はらあたしかユウが飲めばいいのだ。
「そうだな、白柳先輩のような人は……」
まだ出会って十分も経たない男の人の顔を思い浮かべ、あたしは一人飲み物の準備をし始める。
当たっても面白いし当たらなくても多分面白い。
さて、白柳先輩はどんなリアクションを見せてくれるのだろう。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「うぉ、このお茶すげぇ美味いなっ!」
「でしょーっ! いいね白柳先輩。紅茶のことお茶っていう人初めて見ましたけどリアクションはナイスです!」
予想以上のリアクションを見せる白柳先輩にご満悦のあたし。
初対面から思っていたが、この先輩はなかなかにノリが良い。
気を良くしたあたしはささっと買ってきたケーキを白柳先輩の手元に勧める。
「ほらほら紅茶ばっかりに構ってないでケーキも食べてくださいよ」
「おいおいわりぃな、ほんと。よし、次来たときは俺が何か買って来てやるよ!」
「え、本当ですか? ちょうどあたしのすっごく欲しいブランドのバックが出てー」
「食い物なっ! 食 い 物 で、何か買って来てやるよ!」
「そうか。ちなみに俺はモンブランが好きでな」
「だろうな! いい笑顔してるよ食いやがってよ本当にっ!」
マイペースを貫く黒崎兄妹に、さしものリアクション芸人たる白柳先輩もお疲れのご様子だ。
仕方ない、慈悲の心をもって話を変えてあげるとしますか。
「ところでー先輩は彼女とかいないんですかー?」
「いるぞ」
「なんでお前が答えるんだよっ、いねぇわ!」
定番の質問をぶつけたつもりのあたしだったが、なぜか別れる二人の回答に首をかしげる。
「ん? どゆことですか先輩」
「どうもこうもいねぇってだけの話だよ。祐一が言ってんのは、その妹みたいなやつのことだ」
「そうなのユウ?」
「らしいな。俺はてっきり付き合ってるもんだと思っていたのだが」
妹、みたいなもの? それって漫画とかだとありがちな「これから意識し始める男女関係」みたいな感じだけど――やはりこの先輩、面白いな。
「んなこと言って、それなら祐一。お前はどうなんだよ? 知ってるぜ、最近お気に入りの子がいるんだそうじゃねぇか」
「え!? ユウに女の子? マジで!?」
「それこそ根も葉もない噂だろう。なにより彼女に失礼だぞ」
驚いた。ユウにそんな話があったなんて全然知らなかった。
「え、ちなみにユウ。その子とはどんな関係なの?」
「どんな関係と言われても、ただ部活の先輩後輩としての関係性でしかない。とても熱心な子で良く面倒を見ているからそんな噂が流れてしまったのだろう」
自分で言うのもアレだが、あたしとユウは互いの嘘を見抜けるくらいに距離感が近い兄妹である。
だからこそ言える。この兄、本当にその子のことを後輩としか思ってないぞ。
誰かは知らないがその後輩ちゃんにもし気が合ったのであれば、残念ながら想いが届くことはそうないだろう。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。
「ってそんなことより、えーっと真希ちゃん、だよな。真希ちゃんのクラスに柊詩乃って子はいないか?」
「え、柊ちゃんですか? いますよ。同じクラスに」
さて次はどうからかってやろうかと考えていたあたしに気になる名前を告げる白柳先輩。
あまり上級性と関わりの無さそうな柊ちゃんではあるが、この面白先輩とはどんな関係だろう?
「そうか! なぁ、柊ってどんなやつだ?」
「柊ちゃんかぁ。実はあんまり話したことないんですよねー」
柊ちゃんをどれくらい知っているかと聞かれれば、あたしを含めてクラスの女子たちはほとんど知らないと答えるだろう。
極端に、とまではいかないが明らかに交友幅が狭いのは確かである。
要因としては柊ちゃん本人にコミュニケーションをとる意思がないことと、それ以上にその数少ない交友関係に問題があった。
最近では何故か
ただ、なんというか――。
「まぁ、柊ちゃんはきっとマイペースな世界を持ってる女の子だと思いますよ」
あの
それはもしかしたら、派閥だの友達関係だのとアホなことばかりで悩まされているあたしが欲している何かなのかもしれない。
「柊……あぁ、例の子か。この前比呂の話していた子だろ」
「あぁ、そうだ。俺の部活設立に協力してくれた救世主様……だったやつだ」
「救世主? 柊ちゃんが?」
面白い話題を多く持つ白柳先輩の話の中でも、なにやらとても気になるワードが飛び出してきた。
あの柊ちゃんの話というのも貴重なのに、飛び出してきた言葉が救世主? なにそれ!
「え、白柳先輩! なにそ」
興味丸出しで話に食いついたあたしだが、その時玄関のチャイムが鳴り響く。
気が付けばすでに十八時近く、母親の郵便が届く時間になっていたらしい。
「お、やべぇな。もうこんな時間かよ」
「思ったより話過ぎてしまったな。真希、悪いが俺たちは部屋でやることがあるから話はここまでだ」
「えーっ、いいところなのにー」
ごねるあたしの耳に届くのは二度目のチャイムの音。
いいところだが、今日はここでお開きのようだ。仕方あるまいとあたしは玄関へ向かうこととする。
「わりぃな。また今度ゆっくりと話でもしようぜ」
「約束ですからね先輩」
先に階段を上るユウを見送り、あたしは郵便を受け取るために玄関へと向かった。
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