4問目:白 / 黒 ①
「んじゃ、また明日~」
我が親友である
あたしとしても当然愛すべき悪友たちと賑やかなプチパーティを楽しみたいわけだが、非常に不本意ながら用事があるため泣く泣くみんなと別れることに。
こんなことになるなら母親の頼みなど断っていたのにと恨みがましく後悔しつつ、私こと
「あぁ、あたしもカラオケいきたかったなー」
誰に聞かれるでもなく思わず愚痴がこぼれてしまう。
今のところはまだ毎日放課後は遊びに行くなどクラスの女子間での仲は決して悪くないのだが、きっとここから先はそうもいかないのだろうとあたしは思う。
言ってしまえば、派閥争いが始まるのだ。
実際に中学校で実感したことなのだが、女子は集団でつるむことを好むし、さらに『比べられる』ことに負けたくないという、本能的に他者からの優位性を求める生き物である。
中でも男絡み、これがめちゃくちゃめんどくさい。
お子ちゃまだった中学生であの有り様だ。それが高校生になったらどうなるかなど想像もつかない。
実際、クラス結成から二ヶ月以上経った今、当初に比べて遊びに行く人数は少しずつ減っている。
今日のあたしみたいに用事がある人もいるし、そもそも誰かと遊びに行くことに興味がないという人もいる。うちのクラスの有名どころで言えば
「柊ちゃん、遊んでみたいんだけどなー」
可愛い女は正義である。というのがあたしの持論だが、年々目が肥えていくにも関わらずなんと今回のクラスだけでもお目に適った女子が3人もいた。
我が親友である陽キャ金髪の優木美奈。お人形風の無口可愛い柊詩乃。ザ文学少女おさげ少女の
この三人は、本当に可愛い! どこが可愛いと一晩語りつくすことも出来るのだが残念ながらここでは割愛するほかない。無念だ。
と、そんなどうでもいい(どうでもよくない)話はさておき、問題はここから先の派閥争いをどう乗り切るかである。
ここまで語っておいてアレだが、正直あたしとしては楽しくやれればそれでいいと思っている。
幸いなことにそれは美奈も同じような考え方らしく気が合うようで何よりなのだが、まぁ美奈の場合はまた少し違うというか――。
「おや、真希じゃないか。どうした? いつもより早いじゃないか」
「ん? あれユウ? なんでこんな時間にここを歩いてんの?」
背中越しに声をかけられ振り向くと、そこにはあたしの兄が立っていた。
品行方正、真面目が眼鏡をかけて人を形どった人間、それが兄――
「あたしはお母さんに郵便の受け取りを頼まれててさ」
「そうなのか。俺はこれから用事があるのだが……そうか、真希が家にいるのか」
何か困りごとがあると口に手を当てるのが兄――ユウの癖であることをあたしは知っている。
「ちょっとなに? あたしが家にいるとマズイって……まさか女か!」
「は? 何を言って……」
「いいのいいの。あたし理解ある妹だ・か・ら・ね!」
あのユウがまさかの自宅に彼女連れ込み。
そうか、我が兄は人類にちゃんと興味があったのか。感動のあまり涙が出てくるよ。
「はぁ。相変わらずだな真希」
「えーいいじゃん別に。どうせ違うって分かってるんだからさ」
そんな風に
この年齢で仲の良い兄妹は珍しいと聞くが、こと黒崎家ではこんなやり取りが普通である。
あたしとしては兄妹というよりも友達に近いのだが、まぁどうでもいいか。
歩幅の違うあたしたちだが、お互いに少しペースを落としつつも家に向かって歩きだす。
「それで、何がまずいのよ?」
「いやまずいとは言ってないぞ。ただ友人を一人家に招いてな。少しの時間だからいいかと思っていたのだが真希がいるならどうしたものかと」
「なーに? あたしがいると駄目なのか?」
「そうではない。別に真美が人見知りだと思っているわけでもないが、違う学年の異性がいるというのは気を遣うものだろう?」
まぁ、そりゃあそうだ。
いっそ可愛いもしくは綺麗な女子を連れてきてくれた方が良かったのにと思いつつ、口には出さない。いつもは遊び歩いているあたしがいる方がイレギュラーなのだからユウに非はない。
とはいえ当然のごとくあたしにも当然非はないのだが。
「あたしの知ってる人?」
「さぁどうだろうな。
「白柳……先輩……。いや、知らないかな」
「だろうな」
白柳先輩、ね。
どんな人だろう。ユウが自宅に誰かを連れてくるというのも珍しいが、いったいどんな人なんだろう。
「何時に来るの?」
「十七時に到着する予定だから、家に着いてから二十分ほどだろう」
「そっか。じゃあ着替えないでそのままでいいんだ。楽でいいか」
そう答えるあたしに何かを考えるような表情を浮かべるユウは、その疑問を率直にあたしにぶつける。
「今日、白柳は特に話をするために家に来るわけではないのだが」
「えーっ、そうなの? 少しの時間もないの?」
「それは分からないが。まぁ、白柳に聞いてみてもいいかもな」
スマホを取り出すユウ。おそらく白柳先輩に連絡をしているのだろう。
「あ、そうだ。そういえばこの近くにケーキ屋さんが出来たって話だよ。せっかくだし買っていこうよ」
「別に構わないがそんな時間あるのか?」
「大丈夫大丈夫。本当に近いらしいし、今日カラオケで使うはずだったお金が余ってるから奢ってあげるって」
「そうか。それならばありがたく奢られるとしよう」
連絡を終えたのかユウはスマホを鞄にしまい前を向く。
「そういえば郵便はいつ届くんだ?」
「ん? 十八時くらいって言ってたかな? まぁ二人とも家にいるんだし受け取り忘れはないでしょ」
こんどはあたしがスマホを片手に歩き始める。
ケーキ屋のクーポンがあった気がする。それほど安くはないかもしれないが少しでも節約できるに越したことはないのだ。
「そういえば白柳先輩には何を買っていこう?」
「そうだな。あいつは確か……」
そんな他愛のない会話をしつつ、あたしたちの足は一歩、また一歩と家に近づいていく。
これがあたしとユウ、黒崎家の日常である。
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