3問目:特別 / 当たり前 ①
僕、
近場で偏差値もちょうどいいと選んだ高校に入学し約一カ月、恐れていた事態に直面してしまった。
これはあれだ、それまで僕の黒歴史ランキング1位である『妹が本棚に隠していたはずのエロ本を見つけてしまい母親にしゃべり散らかす』の精神的ダメージを優に超えてしまうだろう。
「…………はぁ」
もしもこの世に神様がいるのなら、そいつは多分僕のことが嫌いなのだ。
でなければこんなひどい仕打ちはしないだろう。あんまりである。
「よし、それじゃあ文化祭実行委員は水戸と優木に決まりだ。頼んだぞ!」
湧き上がる拍手の嵐。
「頑張って!」「盛り上げてくれよ!」などという無責任な歓声に対し、僕は声を上げて言いたい。
『陰キャの僕がそんなのできるわけないだろぉぉがぁぁぁっ!!』
文化祭実行委員って何!? てか文化祭だって? 冗談でしょ!
文化祭なんて陽キャが盛り上げてくれればいいじゃんか! それを僕? 正気か!
しかも、しかもだ。
「おいおいしょうがねぇなー! 任せとけって、あたしが文化祭を盛り上げてやるってーの!」
唐突に立ち上がりつつ歓声を一身に浴びながら教室を盛り上げる
ド派手な金髪がトレードマーク、一目見たときから絶対に関わるまいと心に誓ったはずの圧倒的陽キャ女子がまさかの相棒に任命されているではないか!
「ほら、えっと……水戸、だっけか? あんたも挨拶しときなって!」
そう言いながら退路を塞ぐ陽キャ系金髪ギャル――
これはまずい、ここで挨拶などしたら取り返しがつかなくなってしまう。
なんか、なんか断る理由はないか! いまこそ覚醒するときだろ水戸悠!!
「……あ、水戸悠です。よ、よろしくお願いします」
はい終わったー。
グッバイ僕の静かな高校生活。
☆☆☆☆☆☆☆☆
さて、とはいうものの我が校の文化祭は11月。顔合わせなどはするもののまだ一年生の僕たちは今のところ大きく動くこともない。事前に先生に聞いた話によれば、上級生を中心に文化祭の企画内容を決めていき、僕たちはそれに合わせた資料を作ったりすることが主になるらしい。
ここら辺は正直助かったと心から安堵した。クラスを取りまとめるなんてコミュニケーションがあるわけもなく、だからといって優木さんと頻繁に会話をする度胸もない。
「あははっ、マジか!」
「本当だって美奈! あんた見てなかったの?」
「いっや全然! 真希、あんたちゃんと声掛けなさいよっ!」
にぎやかな会話に、思わず机にうつ伏せながら横目で彼女の方を覗き見てみれば、そこにはグループカースト一位(暫定)の中でも更に上位、言ってしまえば『女王』のような地位を形成し終えた優木さんの姿が見て取れた。
マジか。僕本当にあの人と文化祭を盛り上げなきゃいけないの?
『みんな、僕と優木さんに任せとけって! 絶対盛り上げてやっからよ!』
誰だお前は。
頑張って適応した自分を想像してみたが胃を痛めつけるだけの結果に終わってしまった。
……あぁ、死にたい。
「……たは……ね。……かしら?」
「……ねぇ……けよや!」
………………騒がしいなぁ。
優木さんたちとは別の喧騒感。というよりも文字通り喧嘩のようなやり取りが聞こえる。
背が高くガタイの良い茶髪系不良男子、宮原くんと学年トップクラス可愛さを誇る無表情美少女、柊さん。
ある意味では優木さんたちよりも目立っている二人組が、今日も今日とてよく飽きもせず言い争いをしていた。
ちなみに、うちのクラスでは席の配置を出席番号で決めている。
僕の苗字が『みと』、茶髪の彼が『みやはら』となるため僕らの席は前後で並んでいる。
また同様に『ひいらぎ』さんは僕の並びに座っているわけだが、二人が話をしているのは彼女の席となる。
つまり、騒がしい彼彼女のやり取りはすぐ隣の席から聞こえてくるものだ。
それでも普段であれば文句を言いたくなるほどには気にも留めないのだが、今日みたいに静かに時間を過ごしたいという時にはどうしても気になって仕方がなくなる。
「……今度、図書館でも行ってみようかな」
特に親しい友人がいるわけでもなく、教室にいる必要なんてのはない。
本を読むことは好きだし、そういった場所で休み時間を過ごすのも悪くはない気がする。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「なぁ、お前ボードゲームとかやったりするか?」
「……え、な、なんて?」
昼休みが終わってからの五限目の授業。
美術室に移動した僕たちクラス一同は、先生から二人一組による写生を課題として出された。
今回は出席番号によりパートナーを決めることとなり、僕は宮原くんと描きあうこととなったわけだが、互いに向き合うなり彼は唐突に質問を口にした。
「だからボードゲームだよ。ボードゲーム。やるのかやらねぇのか」
「ボ、ボードゲームってな、なに? 麻雀とかは、その、よく知らないんだけど」
な、なんだ急に! これはもしかして――。
『ダチと麻雀やるんだけど人数足んなくてよぉ! せっかくだからお前も来いよ。大丈夫、大したかけ金額じゃねぇからさぁ』
みたいなカツアゲ一歩手前の誘いなのでは!? 良からぬ噂を聞くし、もしそうだったら頑張って誘いを断らなきゃ!
そんな風に最近よわよわになりつつあった意思を強く持ち直そうと奮起し、宮原くんの話を断ろうと口にするところ――。
「あぁ、言い方が悪かったかもしれねぇな。わりぃ」
彼の素直な謝罪の言葉を耳にした。
わりぃって、何が?
「あぁっと、そのだな。チェスを指す相手を探しているんだが、水戸は出来るのかって聞くつもりだったんだが」
「チェス? み、宮原くんが?」
「あ? なんかおかしいかよ」
「い、いやそんなことはなくて、なんというか意外っていうか……。あ、い、いや宮原くんだからってわけじゃなくて高校一年生的な視点から」
「あーあー分かった分かった。悪かったって」
あぶねー。口の利き方ひとつで喧嘩になりそうって、そんな漫画じゃないんだからさ。
でも、チェスか。やったことはなくもないけど……でもなぁ。
「……宮原くんってスマホゲームとかプレイする?」
「スマホゲーム? よく知らねぇってか、あんまりやったことねぇな。あれだろ、金出して買うやつ」
「そ、そうなんだ。結構スマホでゲームとかしてるのかと思った。あ、そ、それで今の話なんだけど」
僕は少しスマホを操作し、宮原くんに画面を見せる。
少し前にはやった、アニメのキャラクターを用いたチェスのアプリケーションゲーム。
僕も好きなアニメで一時はやり込んでいたものの課金要素が強くなり始めたり、今度は別のゲームにはまり始めたりと、気が付けばログインすらしなくなっていたゲームの一つだが、彼の話を聞いて久しぶりに起動して見せることにした。
「これ、このアニメのゲームで少し触ったくらいかな。もし相手を探してるとかならおすすめかも。難易度が選べるから腕前もチェックできるし」
「…………これは、アニメ……ゲーム?」
馴染みのない宮原くんからしたら理解が難しい話だったのかもしれない。
若干顔が引きつっていたのを僕は見逃さない。
「いやいや宮原くん。これは絵こそオタクっぽいけど内容は本当に良いゲームなんだよ。ストーリー……は多分興味ないからいいとして、演出とか。ちょっと待ってて……ほら、見てこの演出! いや、最近のゲームにはない魅力があるっていうか」
「おいおいおいおいおい止まれ止まれ! 分かった、分かったからよ!」
いけない、ついいつもの癖で。
「あ、ご、ごめん。夢中になっちゃうとつい」
「い、いや、いいんだけどよ。……お前、なんか変わったやつだな」
それはお互い様だよ、と言えずに僕は口を閉ざす。
友達とかだったら、言えたのかなと少し寂しい気持ちになるのと同時に、一つ気にかかったことがあった。
――宮原くんは、実は噂ほど悪いやつはない気がする。
「それでそのゲーム? を用意すりゃあチェスがさせるってことか?」
「そうなんだけど……もしかして宮原くん、リアルで指せる人を探してるの?」
「……リアル?」
「あ、えっと現実……じゃなくて、例えば僕と対面で、ってこと」
「あぁ、そういう意味か。だいぶ話が脱線したが、要は水戸はチェスが指せるのか指せねぇのかって話だ」
僕は少し考える。
指そうと思えばチェスを指せるけど、誰かと対面でっていう経験はないし、言ってしまえば実際に駒に触れたことすらない。
宮原くんの事情は分からないけど僕にすら声をかけてくるってことは真面目な理由で探しているのかもしれない。それならば未経験である僕なんて必要ではないだろう。
と、そこまで思考を巡らせたものの、僕はある一つの欲が芽生えてきたことを自覚していた。
「そ、その、ゲームで指したことがあるくらいだから腕は立たないかもしれないけど、多分指せる、と思う」
僕は、宮原くんとチェスを指してみたい。
そこにはおそらく『チェスを指したいから』という理由はないのだろう。
宮原くんのことを知りたいと思ったのか、あるいは退屈が度を越して潜在的に誰かと遊びたがっていたのかそれは分からないけど、ただ、僕は――。
「お、そうか。それじゃあ放課後に相手してくれよ」
「ほ、ほんと? 僕なんかでいいの?」
「なに言ってんだよ、俺がお前以外の誰に話してんだよ」
「そ、そうだよね。ごめん」
「んだよ、やっぱり変な奴だな。水戸はよぉ」
なんだよ、結局僕は友人が欲しかったんじゃないか。
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