第19話 交流夜会 2

 

 三ヶ国が、友好国として良好な関係を続けていける、その基盤を作る。

 俺の代でそれを成したい。

 そう考えていたが、入ってきてすぐにたかわらい……これは、俺の願いは——。


「え! カワイーーー! なんだその肩に乗ってるカワイイ生き物は! 魔物? 魔物?」

「これか? これはアリスだ! うさぎ、というらしい!」

「えー、カワイー!」


 …………。

 え?


「……」


 絶望を感じた。

 その直後である。

 エルマ皇女がすごい速度で駆け寄ってきて、フォリアの肩に乗っていたアリス様を見上げた。

 からのこの態度。

 お付きの従者たち、入り口のところで置いてけぼり。


「カワイイ! カワイイ! 触りたい! 触りたい! 触っていいか!?」

『お断りよ!』

「ガーン! 断られた! 断られた!」

「断られたな! アリスが嫌というのでは仕方ないと思う!」

「そうだな!」

「…………」


 ノリ、似てるね?

 フォリアと、エルマ皇女……。

 若干エルマ皇女の方が幼い感じがするが、それは年相応ってことだろうが。

 従者の人たちの方を見るとハッとしたような顔をされ、その後肩をすくめられた。

 え、なにその態度。

 その上五人のうち二人は「あとはよろしくお願いします」とばかりに丁寧に頭を下げられた。

 ちょっとそのお辞儀どういう意味ですかね?


「フォリア、まずご挨拶しないと」


 よし! なんかやばそうだから流れを修正しよう。

 そもそも挨拶は招待客側が主催に行うものなのだが……せっかく近づいてきてくれたのだからこれを利用しない手はない。


「そうだった! 私はフォリア・エーヴァスだ! リットの奥さんだぞう!」


 なんでドヤ顔?

 しかも胸まで張って……。


「……」


 なんか満更でもない気持ちになるのは、なんだろうな?

 恥ずかし……。


「そうか! わらわはエルマ・クォーンだ! 帝国の皇女だぞ!」

「よろしくな!」

「おう! よろしくな!」


 実は血の繋がった姉妹とかではないよね?


「で? そっちのはなんだ?」

「あ、わ、我らはシーヴェスター王国王太子アグラスト・シーヴェスターと俺の妻、ミリー・シーヴェスターだ。本日は帝国の姫君に会えると聞いて、楽しみにしていた。よろしく頼む」

「おう、貴様がシーヴェスターの王太子か! ではこっちのお前が主催のエーヴァス公国のリット・エーヴァスか!」

「ああ、よろしくお願いします」


 頭を下げるととてもいい笑顔で「おう!」と言われたんだが、あの「ひれ伏すがよい!」発言は一体なんだったのだろう?


「兄様……」

「あ、そうだ。アグラストとエルマ皇女に弟も紹介しておきたい。弟のハルスだ」


 実はアグラストにハルスを紹介したことがない。

 なので、まとめて紹介しようと今日出席させていた。

 今までは人の多い場所は、埃が舞ってあまりよくなかったんだが……今は体調も整っているから、大丈夫だろう。


「はじめまして、ハルス・エーヴァスと申します。お会いできて光栄です、アグラスト様、エルマ皇女」


 ずっと弟をアグラストに紹介したかったのだが、念願叶ったな。

 どうだうちの弟は。

 とても賢くて優しくて気が利く子なんだぞ。

 アグラストはすぐに「話は嫌というほどリットに聞いている。よろしくな」とハルスと握手する。

 うん? なんだその言い方は。


「え! すごい好みなんだが!」


 と、叫んだのはエルマ皇女である。

 耳がつんざくような声だったのだが、普通そんなことを大声で言わんだろう。

 ちら、と従者の人たちのを見るとニコ……と優しく微笑まれた。

 そしてまた頭を下げれた。

 見間違いでなければ諦めた人間の微笑みだったんだが?


「え? はい?」

「え、お、お、お、お前か、カワイイしかっこいいな……! わ、わらわの周りにはいないタイプで……え、え、え、ど、ど、ど、どうしたらいいんだこういう時……!」


 そして突然右往左往し始める。

 頬を包むように両手を当てて、ぐるぐると回転しはじめたエルマ皇女。

 時折ハルスをチラ、チラ、と見て、また顔を赤くする。

 え、えーと?

 こ、これは?

 まさか? まさかそんな、こんなわかりやすく……?

 俺もチラ、とエルマ皇女の従者たちを見る。

 すると従者たちも「ヤベーもん見た」みたいな顔してボケッと突っ立っていた。

 しかし俺の視線に気がつくと、真ん中の一人がハッと我に帰る。

 ちょっとあの人たち大丈夫ですかね?

 まさか顔面だけで従者決めてないよね? ね?


「…………」


 え、えーと……顔を覆われてしまった。

 なんだこの空気。


「もしかして……エルマ皇女殿下はハルス様に一目惚れなさったのですか?」


 と、どストレートに聞いたのはミリーである。

 しかしどうやらこれが当たりだったらしく、エルマ皇女は跳ね上がった。


「ひ、ひ、ひ、ひとめぼれ……」

「っ」


 ええ、これどうしたらいいの?

 チラッ、と斜め後ろを見ると、ハルスも盛大に困惑顔。だよね。


「ここはわたくしにお任せください」


 と、突然ドヤ顔になるミリーは、今日一いい笑顔になると——。


「エルマ殿下、まずはあちらで一息つきましょう?」

「う、うんっ」

「あ、ケーキあるぞ!」


 そう、ケーキや軽食が置いてある場所に誘導していく。

 俺は思わずハルス、アグラストと顔を見合わせる。


「で、出出しから波乱だな……」

「胃が痛い……」

「に、兄様、しっかり!」

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