第4話 



 「__大好き。」



 しがない廃人の僕に送られてきたモノはたったそれだけの言葉だった。その言葉は今となっては余り用いなくなったであろう葉書で届いた。差出人不明だが、今の僕と何らかの関わりを持ってくれている親人は数少ないため、各々にメールすれば誰からの葉書なのかなどすぐにわかるハズだ。

 嗚呼、又誰からの言葉であるのか探りたくなっている。恐いからそれが別に悪いことでも良いことでもないが、書き手がワザワザ名を隠しているのに聞き出すのは野暮なのかと刹那沈黙と化す。いまだにガラケーの携帯を片手に持ったまま訳も分からず震える。 いや、いい。ただメールを送ればいいんだ。どのような意図で僕に送ったのかも気になるところだ。とうとう腹を決っして、一斉送信した。そのような手段は相手に悪いし面白くない、か。だったら同様の文で何故悪い。機能は有効活用した方が良いと言うではないか。__そう言うことではないのならどういうことだ。訳も分からない事を勝手に自己解釈して自問自答する。それは虚しいが、意外と楽しい。




 「__大好き。」


 

 送られてきた知人からのメールを開くと、誰もそんなこと書いていないと送られてきた。すると迷惑メールなのだろうか。廃人の僕への嫌がらせ?兎に角背筋が一時ぞっとした。

 嗚呼、知らない赤の他人から送られてきたメールだからと恐怖を覚える自分がいる。愛のない言葉ではないのにも関わらず厭悪えんおを抱いて。悪戯でも、誰かに送りたいという優しさが潜んでいるかもしれないのに勝手に思い違いのまま受け止めて。それは自分でも乏しい器だと感ずるが、仕方がないなんて考えたりしてしまった。

 


 「__大好き。」



 そもそも、この言葉は僕に何を告げ

たいと思ったのかを考えていなかった。大好きって、何だ。

 あああ、又又々そう言う話に走る。


「like or love」 


 そんな差異を考える。どうしてどちらでの想いなのか知りたいのだろう。ただの赤の他人からの葉書の筈なのに点で撞着しているように好かれたいと。昔良くクラスに2、3人はいた、ただ男女が隣歩いているだけで恋だの何だの言う人が。それは主観じゃないのか?肝要なのは自分自身は何を知りたいかではなく、空想でも考えて客観的に受け止められるのかではないのか。廃れていて、心理学者とか、言葉の玄人ではないから素直に受け止めたり出来ないだろうけどそんなことを大切にしたい。例え其れが重要になってくる世間ではなくても。



 「__大好き。」



 この言葉にはどうやら続きがあったようだ。オレンジ汁で書いた字を炙り出すと文字が浮き上がるという興味深い技法があったなと思い、まぁ近年は流石にそんな複雑な事をやらないだろうと思っていたが、試みると文字が浮かび上がってきた。


 「この言葉、君が高校生の時に送りたかったなぁ……今じゃ覚えていないだろうから。」


 これって、未玖の字じゃないか。ふと当時の記憶が走馬灯のように甦る。頭の中がふと無意識に掛けていた鍵を開けた。未玖と言えば、あの真ん丸眼鏡が第一印象だった。クラスメイトになったとて、一度も喋ったことのない相手だった。そんな彼女が今更__。と言うか、何故僕の住所を知っているんだ。

 けれどそのようなことどうでも良かった。彼女ならば、廃人と化した僕を救ってくれるのではないか。他人任せに過ぎない発言だったと己でも感ずるが、それ程信用している証と捉えて欲しい。__だってどうせ、彼女には出逢えないから。高校生の時に何も接点を作れなかったが、住所を据えて欲しかった。

 ただその言葉に勇気づけられただけだった。それでも、



 「もしもし、あの、此処って社員募集していますか。」

 


 何か自分でも踏み出せるキッカケになったような、気がする。



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