第5話 遊戯

その日、相当疲れていたのもあってなのか、ふかふかな布団であっという間に眠りに落ちた。


 目を覚ますと障子越しに暖かい日差しを感じた。鳥のさえずりも聞こえ心地良いめざめだ。

伸びをしようとすると肘に何かが当たった。


ん?


掛け布団を持ち上げるとそこにはクイがいた。


「どわあぁぁ!」


思わず声をあげる。

その声にクイが目を覚まして目をこする。


「おはよぅ!たいち」


「お、おう、おはよう」


朝の挨拶ができるのは悪くない。

しかし、大丈夫なのだろうか、この状態。

そんなことを考えているうちに近づく足音が聞こえる。


「タイチ、入るぞ」


「ちょっ、ちょっと、まっ……」


 そんな答えをする前に障子が開かれる。


 ガラッ


 シナコと目が合う。


「おまえ、なにやってんだ?」


 どうらやシナコは怒っているらしい。いや。怒られても困るのだが。


「あ、シナコおはよー!」


 そうクイが片手を上げた瞬間、シナコのボディブローを喰らった。

それはもう素早く、重く。


 朝食は昨夜と同じようにみんなで食べる。

 これまた昨夜と同様にうまい。

 正直ここの生活も悪くないのかもしれない。

 朝食が終わろうとした時、サトルが声をかけてきた。


「タイチ君、良かったらちょっとクイの遊び相手になってくれないかな」


「え、遊び相手ですか?」


「ああ、そうだな、今日は追いかけっことかどうかな。もしも君がクイを捕まえる事が出来たら、直ぐにでも君を街まで送ろう」


「本当か?」


サトルがニヤリと笑う。正直しばらくいても良いのだが、ここは全力で捕まえようではないか。


「タイチくん、本気を出してくれよ」


 言われるまでもなく!


「クイ、捕まったらタイチ君には帰ってもらうからな」


 いまだ食べ続けるクイが、顔を上げる。


「そんなのヤダ、絶対捕まらない」


 そして再び食べ始める。

 マジでどんだけ喰うんだ?


 ご飯も食べ終わり一時間ほど休憩してから外に出る。日差しは結構強いが風が程よく吹いている。近くで川が流れている音も聞こえる。

 タイチの三メートル程先にクイがいる。

 直ぐ後ろにサトルがニヤニヤしながら立っている。


「じゃあ、はじめるよ。いいかい?」


 タイチとクイが頷く。

 タイチはゼンを起動させるといつもの様に頭がさえてくる。クイの周りは一瞬砂塵が舞ったような気がしたけど。タイチはきっと風のせいだと思った。


「よーい。どん」


そう聞こえた瞬間、クイは一歩で三メートルほどとんだそのまま跳ねるように走るのをなんとかタイチも追いかける。


が、速すぎる!


 ゼンによって身体能力は上がっているはずなのに全く追いつかない。

 クイは楽しそうに走っている。しかもまだまだ余裕そうだ。けど、だからといって簡単に諦めるわけにはいかない。

 地下都市での、体育の授業を思い出し、フォームを整えると、更に加速するが、クイには全く追いつかない。


「タイチー!はやくぅ!」


 くそぅ!全然追いつかん。走れば走るほど差は広がり、それどころか息は切れ、足が重くなっていく。フォームが崩れ、スピードも落ちると、さらに差はどんどん広がっていった。


 スタートして五分程でついに歩き始めてしまう。


 情けない。


 そんなタイチにクイはUターンしてくる。


「タイチどうした。バテたのか?」


 頭はガンガンた悲鳴を上げていたが、ここで終わってはあまりにも情けなさ過ぎる。


「まだまだぁ!」


 そう叫んで再び追いかけるも、スピードも、体力も全く敵わず、10分後にはギブアップをした。


 というよりも気絶した。


 気がついたときは布団の上だった。


 目の前にはクイの顔があった。


「タイチ、起きたか」


 そう言ってクイは、パタパタと部屋を出てシナコを、呼びに行く。

 身体を起こそうとすると全身が痛い。特に足が痛くどうやら筋肉痛らしい。


 痛むところをマッサージしてる間に、シナコがやってきた。

 クイに連れてこられてやってきたシナコは不気味な笑みをあげている。


「気絶したらしいな、タイチ君。ふふっ」


 こいつ、完全に馬鹿にしている。

 本当のことだからしょうがないが、勝ち誇った顔が気にくわない。


「まあ、飯でもくって元気だせよ」


 励ましてくれているのだろうか。


 そう思っていたのもつかの間シナコは馬鹿笑いをした。つられてクイも、笑う。


 こいつだけは絶対ゆるせん!!

 いや、こいつらだ!!!


 そう心に決め飯を食いにいく事にする。居間から移動しながら既に夕飯の時間帯になっていることに気がつく。正直あたまがくらくらして歩くことすらしんどいが、それをシナコにバレるわけにいかない。


 居間に着くと、いつも通り皆揃っていた。

 夕飯には、先日と殆ど同じ物が並んでいた。


「タイチ君、どうだったかなクイは」


 食事をしながらサトルが聞いてくる。


「はい、全然敵いませんでした。スピードも体力も」


 正直にそういうとサトルはにっこりと笑う。

 まあ、もともも殆ど笑っているような顔なのだが。


「すまんが、もう少し付き合ってくれ」


「はい、でも、いいのでしょうか。こんな遊んで、ご飯もいただいて」


「気にしなくて良い、クイも喜んでいるし」


 相変わらずクイは飯をたくさん食べている。そう思いながらも、タイチも今まで以上に食べる。


 それにしてもあのスピードと体力はなんとかならないだろうか。


 考えながらいつも以上に飯を食った。

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