第4話 到着
橋を越えて村に入り少しだけ軽トラを走らせると、一番手前の大きな古民家に入り、そこの駐車場で軽トラを止めた。駐車場の奥の方には使えるかわからない中型くらいのバイクが置いてある。
「着いた!」
クイはそう言ってぴょん、と荷台から飛び降りるとタモツもその後に続いた。
タイチか荷台から降りたところで、運転席からはシナコも出てきた。
「よろしく」
シナコはタイチの方を向くと、それだけ言って家の中に入っていく。顔は整っているが、決して笑わないシナコにはデレはない。
もったいないことだ。
シナコに続いてタモツも家に入っていく。タモツは何も言わない。
まあ、男にはツンもデレも求めていないが。
「おい、タイチこっちだ」
クイはそう言ってマイクロバスのほうで手招きをしていた。タイチがバスのほうまで歩くと中から二人の男の人が出てくる。
「こっちがガツで、こっちがナガイだ」
そう言って紹介されたのは、アパート襲撃の際にバスから出てきた二人で、中肉中背の背が160センチないくらいの奴がガツ、ひょろりと細く、180センチくらいありそうな奴は見た目のままナガイと呼ばれていた。
「よろしくお願いします」
何をお願いするのかよく解らなかったがとりあえずそう言うと、二人は軽く会釈のようなものをしてすぐにバスの中へと戻っていった。そしてそのまま村の奥の方へとバスを走らせた。
もしかしたら嫌われているのかもしれない。まあ、どうでもいいか。
路はくねくねと少しずつ上りながら曲がる。その道沿いに4~5軒くらいずつの民家のまとまりが10箇所くらいある。さらにその奥には牧場のような広く開けた土地があった。
「あいつら無口なんだ、じゃあ、家にもどろっか」
クイは鼻歌を歌いながらタイチの手をつかむと家の方へと導いて行った。
玄関を開けるとそこは土間に繋がっていて、釜戸からは湯気がこぼれている。
「ただいまぁ」
クイが元気よくそう言うと、土間で靴を脱ぎ捨て居間に上がり、どたどたと中の方へと入って行く。
「お邪魔します」
タイチもクイの後について恐る恐るそう言いながら居間のほうへ向くと、真ん中の方には囲炉裏があり魚が何本も刺さっている。魚からは油が焼けたにおいが漂ってくる。いい匂いだ。囲炉裏の奥のほうには見知らぬ男と女がいて囲炉裏の周りに向かって左にはタモツ、右側にはシナコ、シナコの隣にはクイがいる。
「君がタイチ君かい?」
奥に座った細目の男がそう言った瞬間、その男からの強い殺気を感じた。
タイチは身構える。脳内のゼンを起動させると、いつも通りの圧迫感の後に頭が澄んでいく。
こちらから攻撃するわけにはいかない。こちらから何をしても取り押さえられるのは間違いない。
ただ、相手が仕掛けたときのみ対応するしかない。そう考えながら相手の糸目男の動きを探る。
どれだけ時間が経っただろうか、実際には一瞬だったのだろうが、とても長く感じる。
「サトル、飯くっていいか?」
クイの声がして殺気は止んだ。タイチもゼンを停止する。頭の回転と身体能力を強化するために使用するゼンはカロリーをえらく使う。そのため使いすぎると過労死や栄養失調になるとされ使用は限定するように地下都市では言われていた。そのため緊急事態でしか使えない。ただ、記憶をするための使用はあまりカロリーを消費しないが。
「悪かった、おれはサトル、こいつはシズカ」
そう言って糸目の男は笑った。隣にいる胸のでかい妖艶な女性もにっこりと笑うと、クイは魚を取り出してむしゃむしゃと食べ始めた。
シズカと呼ばれは女性は20代後半くらいだろうか、久しぶりに見た綺麗な大人の女性だと思った。サトルも同じくらいだろうか、座っている場所からも一番偉い人なのかもしれない。
「とりあえず飯にしよう。早くしないと全部クイに食べられてしまう」
そうしてシズカとタモツはご飯の準備を始めた。その様子を見ながらシナコとサトルはしないのかと思ったが、自分も手伝うわけでもないので何も言うことはないか。
準備された食事は素晴らしくおいしかった。ご飯、味噌汁、魚、漬物、納豆、卵とサラダが少しといったものでタイチにとって豪華な物だった。一つ一つがとても旨い。地下では物資が不足していて、食料はジャガイモが多かった。魚は肉より贅沢品で、米すらも贅沢品だった。地上生活では加工食品が多く、カップ麺などが多かったため、こんな贅沢品にありつけるのは、何年ぶりだろうか。
タイチは遠慮なく食べた。ただ、地下都市の暮らしで少食だったため直ぐにおなか一杯になる。反対に彼らはかなりの量を食べていた。米はそれぞれ二合くらい食べて、クイに関してはその倍くらい食べていた。よく入るものだと感心しながら眺めているとサトルが話しかけてきた。
「で、君は何者なのかな、今まで逃げようとしたやつなんていなかったのだが、これからも君見たいやつが増えるのだろうか」
食事がほとんど終わったところだった。
「そうですねぇ」
地下都市のことをどれほど話してよいのか迷ったが、重要な武器や技術の話以外なら問題ないと考え、地下都市から来たことを話した。地上にいる人間がヴァーチャル世界によって骨抜きになっていること、それ以外の人間が地下都市にも住んでいるということ、そこは地上に比べ食料が不足していること、自殺者が増加しているという地上の調査に来ていること。
そして、しゃべりながら、もしかしたら自殺者というのは彼らにさらわれた人達なのかも知れないということ。
「ふむ、興味深い」
サトルはそう言ってにっこりを笑う。そして
「で、お前は帰りたいのか?」
と聞かれ考える。
帰りたいといえば帰りたいが、正直彼らの生活というのも興味がわいていた。これこそ調査に相応しいような気もする。しかし、相手の本拠地にいていつ殺されるかも分からないのは正直怖い。というか、帰りたいといえば帰らせてもらえるのだろうか。
「あの、帰らせてもらえるのですか?」
素直にそう聞いてみる。
「まあ、お前のことを気に入っているクイ次第かな」
そう言って笑うサトルを見ながら、なら何故聞いたんだ、なんて思いながらクイのほうを見る。来るときは気に入られなければと思ったが、帰るには嫌われなければならないのか?
というか、嫌われたら無事でいられるのだろうか。
サトルと話している間に、タモツは寝室へ行き、シズカとシナコは片づけをしている。クイも最初手伝っていたが直ぐに居間に戻って来るとタイチの横でうとうとと頭を揺らし始めている。
この隙にクイに聞いてみる。
「なあクイ、帰っていいかな」
「だめ」
寝ぼけているくせに即答するクイにサトルが笑う。
「まあ、どちらにせよ身体が治るまでしばらくいるといい」
「はい」
まあ、確かにここに暫くいるのも悪くないのかもしれない。
タイチは楽観的に考えた。
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