第37話 バハムートとの闘い⑥

 ソルは剣を構えた。ソルはHPをほぼほぼ使い果たしているが、MPは温存できている。対するバハムートは反対である。HPは温存できているが、MPは殆ど空である。

 

 一般的にはHPとMP、どちらが重要かというとHPの方である。HPは空になれば死ぬが、MPは魔法を使えなくなるというだけだ。

 

 死ぬわけではない。魔法が使えなくなったところで、物理攻撃ならできる。故に戦闘を継続する事はできた。


 故にこの状況、五分という事はありえない。バハムートの方が圧倒的に有利な状況である。

 

 ソルが圧倒的不利な状況という事は間違いない。


 だが、ソルには策があった。


 ソルには解放された古代の力(スキル)があった。強力すぎるが故に太古の時代に失われた力(スキル)。その力(スキル)の中に現状を打開する秘策があった。


 ソルはスキルを習得する。


『HP/MP変換(トランス)』


 このスキルはHPとMPを変換(トランス)する。HPがMPに、そしてMPがHPになる。分類としては魔法スキルとなる為、その気になれば先ほどのように、バハムートは『魔法無効化(マジックキャンセラー)』で無効化する事ができる。


「き、貴様! 何を! 『魔法無効化(マジックキャンセラー)!』


 本能的に危険を察したバハムートにはもはや今までのような余裕はなくなっていた。慌てて『魔法無効化(マジックキャンセラー)』を発動しようとする。――だが、発動しなかった。


『くっ! なぜだっ! なぜ発動できない!』


「無駄です。竜王バハムート、あなたのMPは殆ど空同然です。だからMPを消費する『魔法無効化(マジックキャンセラー)』は発動できない」


 ソルの言う通りであった。バハムートはソルの放つ魔法を無効化(キャンセル)できない。MP切れを起こしているのだから当然だった。『魔法無効化(マジックキャンセラー)』は魔法スキルの扱いであり、MPを消費する魔法だからだ。


『か、考えなしに『フレア』を撃ちすぎたか……』


 バハムートは自身の愚かな行いを嘆いていた。完全に慢心していた。絶対的強者であるというその自負――油断がバハムートの最大の敗因であった。


 もはやソルの『HP/MP変換(トランス)』を阻む手段はバハムートにはない。


「HP/MP変換(トランス)』」


 ソルはバハムートのHPとMPを変換した。


『くっ! ううっ! ……』


 バハムートのHPが大幅に減った。今の状態であるならばソルの攻撃でも十分にトドメになりうる。


『だが! 別に殺し切ればよかろう! もはや手加減はせんっ! 全力で貴様を殺すっ!』


 バハムートのMPはHPから置き換えられたことで、満タン状態まで回復していた。故にまた、先ほどのように無茶苦茶に『フレア』を放つことができた。

 バハムートもまた必死であった、出鱈目に『フレア』を放つ。


 ソルは跳んだ。天高く。


「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 そして、バハムートを斬り割く。技スキル『一刀両断』。今のソルの剣であるならばバハムートのHPを削り取る事は十分に可能であった。


 瞬間。まるで再び時が止まったかのようだった。


「ば、ばかな……こ、この我が、に、人間ごときに……」


 バハムートが果てた。バハムートは巨大な黒龍の姿から、再び少女の姿を形作る。


 ソルはバハムートに勝利したのだ。勝利したことによる達成感などない。ただ必死なだけであった。実感がわかなかった、自分が勝ったという実感が。だが、時間が経つたびに段々とではあるがその実感が湧いてくる。


 長かった闘いはここに終わった。


 そしてソルはこのダンジョン『ゲヘナ』の攻略を一人で終えたのである。

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