第38話 クリア報酬でバハムートが使い魔になる

「ううっ……」


 倒れたバハムートは目を覚ます。最初の時のような少女の姿形をしている。先ほどのような巨大な竜の姿は威圧感がある為、現状の姿の方がソルとしても好ましかった。


「わ、我は負けたのか……」


 バハムートは敗北を受け入れられていないようであった。


「ま、まさか我が負けるとはな。それも一人きりを相手に」


 バハムートは立ち上がった。


「だが認めなければならぬな。ソルよ。貴様がこのダンジョン『ゲヘナ』を最初に制覇した。その偉業を我が認めよう」


 バハムートは微笑んだ。


「ありがとうございます、バハムート様。それで、俺はこのダンジョンから出られるんですよね? 外の世界に」


「うむ。そうだな。出られる。後でちゃんと転移魔法(テレポーテーション)で外に出してやる。我にはその権限が与えられているのである」

 

 バハムートは胸を張った。


「だが、その前にクリア報酬の話だ」


「クリア報酬ですか」


 とはいえ、ソルはバハムートを倒した事で膨大なSPを手に入れた。その獲得SPは実に『10000』である。これだけのSPがあればステータスをカンスト近くまで上げる事もできるし、スキルも半ば取り放題になった。


 ソルにとっては十分すぎる報酬と言えた。だが、貰えるというのならば貰っておいた方がいい。


「ちなみにそのクリア報酬って言うのは何ですか?」


「うむ! 聞いて驚くが良い! このダンジョンのクリア報酬は大変豪華なものである!」


「豪華なものですか……」


 それは装備なのか……あるいは金銀財宝なのか。何なのかはわからないが、バハムートがそうまで言うのだから期待感を持てた。


「聞いて驚け! クリア報酬はなんと!」


「なんと?」


「貴様に頼もしい使い魔が手に入るのだ!」


「頼もしい使い魔ですか! どんな使い魔なのです!?」


 使い魔――ソルは基本的にソロプレイで闘ってきた。仲間は愚か、使い魔の一匹もいなかったのである。


「見てわからないのか? 今、貴様の目の前にいるであろう!」


「もしかして、バハムート様が俺の使い魔になるんですか!?」


 ソルは驚いた。


「うむ! そうだ! このダンジョン『ゲヘナ』の報酬は我、自身である! どうだ!? 嬉しいであろう!」


 バハムートは胸を張った。


 ソルの目の前に選択肢が現れる。


『バハムートを使い魔にしますか? YES/NO』


 ここに来て、バハムートを使い魔にしないという選択肢はあるのか? ソルは考えた。


「まさかソルよ。いや、我が主人(マスター)よ! ここで我を使い魔にしないなんて選択肢はないだろう? 我はこのダンジョンにずっと引きこもっていて退屈だったのだ!」


 バハムートはソルに泣きついてきた。


「我とて引きこもりは嫌であった! だがそれが責務だったから仕方なかったのだ!  ソルよ! そなたが我の主人(マスター)になって外の世界を見せてくれるのだろう! 我はもっと外の世界を見たいのだ! 色々なものを見て回りたい、そなたが我を連れ出してくれるのではないのか!」


 その泣きついてくるバハムートの顔はとても竜王と呼べるようなものではなかった。尊厳がなくなっている。まるで子供が駄々をこねているかのようだ。


「我は役に立つぞ! 空も飛べるし! 移動も便利だ! それに戦闘でも役に立つ!   どんな強敵が現れても存分に闘ってみせよう! それにそなたがどれほど好色であったとしても、必ずや満足させてみせようではないか! 我はこう見えても脱げば凄いのだぞっ!」


 バハムートは色々と主張してくる。


「うっ……」


 可哀想だ。ここに来て使い魔にしないという選択肢はないだろう。ソルは大人しく『YES』の選択肢を選んだ。


『竜王バハムートが使い魔になりました』


 ソルの目の前に表示がされる。ソルとバハムートには魔術契約が施され、主人(マスター)と使い魔の関係になったのだ。


「ふう……」


 バハムートはほっと一息、胸を撫で下ろしていた。


「それではこれから頼んだぞ。我が主人(マスター)よ。我の名は竜王バハムートである」


 こうしてバハムートがソルの使い魔になった。これで一応はクリア報酬をもらった事になる。


「それじゃバハムート様」


「様はいらぬ。呼び捨てでよい。我はもう主人(マスター)の使い魔なのだからな」


「じゃあ、バハムート。外に出してもらえるか?」


 ソルはバハムートに最初の指示を出した。


「うむ。わかったぞ。主人(マスター)。転移魔法(テレポーテーション)」


 ソルとバハムートを魔法の力が包み込む。


 そして二人は外の世界へと転移したのである。


 長かった『ゲヘナ』での闘いに終止符が打たれたのだ。

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