第2話

僕たち4人は、一体何が原因かを話し合った。

「他のクラスでは記憶喪失は、おきてないみたいだ」と大山が言った。

「うちのクラスだけってことか…」と零が言った。

「何があったのか。思い出していこう。何か記憶喪失が起こる原因があったのか」と僕は言った。

僕らは今日の行動を、1つずつ順番に話し合っていった。

何か変わったことはなかったか…。

1時間目 理科。

2時間目 国語。

3時間目 社会。

ここまでは、特に問題なかった。

ただ、普通に授業を受けていただけだ。

「とすると」と僕は言った。

「やっぱり一番怪しいのは、皆が最後に踊ってるコロブチカかな」

コロブチカ。

これが関係しているようだ。

4時間目 体育。

秋の体育祭で踊る、フォークダンスの練習をしていた。

題目はロシア民謡である、コロブチカだ。

「あん時さ」と大山が言った。

「すげー霧がでたよな」

4人ともうなずいた。

霧のせいで、距離感が上手くつかめなかった。

おかげで。ぶつかったり転んだりする者が、続出した。

「もしかして、あの霧のせいなんじゃねーの?」と大山が言った。

皆。その霧を思い切り、吸い込んだ。

あの時。校庭にいたのは、僕らのクラスだけだった。

「そうなの?たかが霧のせいで、私達の記憶が無くなったっていうの?」

納得しなかったのは、零だった。

自分に自信を持っているためか。たまに人を見下すところがあった。

「でもさ。他に理由もないじゃないか」と大山が言った。

「他に。記憶喪失を起こすような出来事があったか?」

「…そうだね」と僕は言った。

確かに。大山の言う通りだ。

何か普段と違うことがあったのは、あの霧だけだ。

数時間前の霧が。

みんなの2年半の記憶を奪っていったのだろうか。

僕と優は、顔を見合わせた。

優も不安そうな顔をしている。

「何か。止める方法ってないのかな…」

優がすがるように言った。

だが突き放すように、零が言った。

「大山君の言う通り、霧が原因ならもう無理よ。だって私達もたっぷり霧を吸い込んだじゃない。だから皆と同じように。あと少しすれば記憶を無くすのよ。中学時代だけのね」

はっきりと言われて。

優はますます落ち込んだ。

「そんな風に言わなくてもいいだろ。零」

僕はいらっとしながら言った。

優がかわいそうだった。

「なによ。光はいつも優のことをかばうんだから。まあ、彼女だから当然だろうけどね」

零が冷たい目で言った。

「私は本当のことを言っているだけよ。それが悪いっていうの?」

「言い方があるんじゃないかって、言ってるんだ」

「ふん。大体、私は記憶が無くなっても、別に困らないもの。むしろ私なんか、中学時代の記憶を無くしてほしいくらいよ」

「どうしてさ?」

「それは…」

零は言い渋った。

「?」

「そんなこと。別に言わなくたっていいでしょ!」

零が怒った。

「えっ!?あっ。ああ…」

なんで怒られたのかよく分からず。僕は困惑した。

クールな零とは正反対なのが、優だった。

優が立ち上がった。

「私はいや!2年半の記憶が無くなるなって、耐えられない!だって。それって。友達や零。光君との思い出が全部消えちゃうっていうことだよ」

その時。

不意に教室のドアが開いた。

僕たちの視線は、ドアに集中した。

入ってきたのは、手袋、白衣、マスクをした4人の人物だった。

全員男だった。

教壇の前に1人が立ち、その背後に3人が回った。

「落ち着いて聞いて下さい」

その声は低く重かった。

「 我々は、国から派遣された医療機関のものです。今、君たちのクラスメイトを診察して来たところです。彼らは記憶を失ってしまっている。それも中学の記憶だけを、です。

我々も原因を追求しているが、特定するには時間がかかりそうです。そのため残念ながら、君たちの記憶が消えることを防げそうにありません。申し訳ない。

他の生徒達を見ていると、命や健康には別状ないようだからその点は安心して下さい。 記憶があるうちに、思い出話を楽しんでほしい。…以上です」

医師達が教室を出て行った。

僕らは。しばらくの間、呆然としていた。

僕ら4人もいずれ記憶を失う。これは避けられない現実なんだ。

「くそっ!」

大山が声を上げた。

「やっぱり俺たちは、このまま記憶を失うしかねーのかよ。ちくしょー」

「大山…」

「うっ」

「どうした?大山」

大山にも異変が起きた。

辺りをきょろきょろと見回した。

これまでのクラスメイトと同じように、ひどくうろたえている。

「ここはどこだ?君たちは一体誰だ?」

大山は別の小学校出身だった。

「僕たちは、お前のクラスメイトだ。ここは中学2年の教室なんだよ」

僕は大山に記憶を保ってもらおうと、必死だった。

だがそれも無駄だった。

「中学2年だって?嘘だ嘘だ。だって俺は、小学校を卒業したばかりなんだ。中2のはずがないじゃないか」

そして。最後には教室の後ろで、コロブチカを踊った。

僕は教師に連絡するしかなかった。



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