第2話
現在、川辺にて焚き火で鮎を焼いて食べる三人。《運び屋》であるザックが丁度塩を持っていたのが幸いなのか、適度に塩を振られた焼き鮎は中々に美味い。
何はともあれ、《騎士》のミーナは血を失い過ぎて昏睡中、ルージュが持っていた薬草を飲ませたが、傷口が深く頑張っても応急処置が精一杯との事。死にはしないが、血が足りなくて起きれないとルージュは言った。馬車も無くなり、《聖女》ミラも魔力が回復し切れていない。
「しゃーね、野宿するしかねぇか」
ザックの職業である《運び屋》のスキルで『
「ほら聖女サマ。焼けたぞ」
「あ、ありがとうございます。でもザックさんも食べてください」
「俺は坊主から貰ったゲテ肉で食欲ねぇ」
《運び屋》の『
『奇怪の森』は一級から五級までの等級の魔獣が森を彷徨いている。基本魔獣も弱肉強食だが、あの森は弱肉強食が行われず、どの等級の魔獣が現れるか未知数な故に奇怪なのだ。下手に進めば全滅だ。
「しかし、王国は大騒ぎだろうな」
「……確かに、乗ってた馬車も確認出来ないと、魔獣に襲われたって考えてると思いますし」
「俺も馬鹿もこのザマだ。馬車ねぇから徒歩になる。川辺から行くとなると大分遠回りだな」
此処から徒歩だと三日と言ったところか。流石に三日もすれば各王国だって騒ぎ立てる可能性は極めて高い。
「坊主、お前の風のアレで王国まで飛べねえか?」
「…出来なくはない。けど、その王国に寄る理由、僕にない」
「王国から謝礼金貰えるぞ」
「……?何で?」
ルージュは理由が分からなくてコテリ、と首を傾げる。
「この方が聖女サマだからだ」
「……?」
「あれ?通じてねえのか?」
「何で聖女を守ったら、謝礼金、貰えるの?」
ザックはこの時、違和感を感じた。
この少年、この世界の事情に疎い気がする。まるで今まで別の場所に隔離されていたような。
「お前、もしかして『
「……えん、じゃく?」
「各王国で蔓延してる三大病魔の一つ…ちょっと待て坊主、お前さんどっから来た?」
「精霊郷」
「…マジか。まあ、なら知らねえのも無理はねぇ」
精霊郷。
それはこの世界の精霊が持つ領域の事。世界には四属性、火、風、水、土の四つの属性に基づいた精霊が存在する。その中で強さや存在の大きさによって、順位が割り振られている。その中で一位から三位までは高位精霊と呼ばれ、その一体一体が自分だけの世界、精霊郷を持っている。
基本的には外部からの侵入は出来ず、精霊が見染めた者のみしかその領域に入る事は出来ない。恐らくこの少年、ルージュはその世界にずっと居て、外の情報を殆ど知らないのだろう。
「今、三大病魔の一つ。って言っても前まで二大病魔だったんだが、『
「三大病魔?」
「そこからか。まあ簡単に言えば、現在の医学では治せない病魔の事だ。特効薬もなければ対策法もなく、感染経路も不明。かかったら数週間から数ヶ月以内に死ぬのが基本的。かかって即死の奴もいるけどな」
基本的には不治の病と呼ばれる病魔なのだ。その中で何の処置もしなければ確実に死に至る。精々延命は出来ても、根本的解決には至らない。
だが、その病にも特効薬となる存在がある。
「……それを聖女、治せるって事?」
「まあな。今、世界に聖女は二人存在する。逆に言えば、治せるのは二人のみだ。当然ながら治させたくない奴等は狙ってくる」
聖女の固有魔術。いや、魔術の秘奥、魔法と呼べるクラスの大規模浄化。病魔を完全に殺す事が出来る唯一の特効薬だ。
だが、蔓延を望む存在は当然存在する。世界を混沌に染め上げる快楽主義者、この状況を利用し、革命を起こそうとする存在。聖女を邪魔だと思う連中は当然ながら存在する。
「『
「その可能性が高えな。魔王討伐から二年。魔王信者の仕業だと思うが、詳しい事は不明。感染経路調べる前に治すのが先だけどな」
魔王は二年前、勇者達に討伐された。
だが、魔王が死んでも魔王を信仰する組織や、信者を全てを仕留める事は出来ず、組織は分散し、息を潜めていた。その魔王信者が何かをしたと考えるのが妥当だ。
「でも、聖女の護衛、少なくない?」
「バレたら死ぬ可能性が高い存在がまだ世界にはいる。今のところ、副団長の騎士サマが実質的に最強だが、それらは次元が違う。だから人数は最小限に絞って、護符や魔獣避けを乗せた馬車でバレないように周ってたんだが、魔獣の異常さで裏目に出たな」
魔獣がまさか徒党を組んで襲ってくるとは思わなかった。知性を持った魔獣ほど厄介なものはない。特に数が数だ。ユースティア王国で副団長を務め、
「ってことで坊主、あの風で俺らを王国まで飛ばしてくれねぇか?謝礼は弾むぜ?王国が」
「ザックさん、カッコ悪いですよ」
呆れた様子でミラがザックを見てため息を吐く。まあ、王国から謝礼が出るのは事実だし、
「王国で、情報が欲しい」
「どんな?」
「フィールって精霊、僕は探してる」
ザックが記憶している中で、第一位から第三位までの精霊の中でフィールという名前の精霊は居ない。だが、王国なら何とか調べられるだろう。フィールという未だ知らない精霊、もしくは偽名を使った第一位から三位の精霊なのか、可能性はある。
「オーケー、掛け合ってみりゃ見つかる可能性が高いし、謝礼金も弾む。坊主は俺らを王国まで送る。契約成立だな」
「ミラ、だっけ?君も、それでいい?」
「あっ、はい大丈夫です」
ザックは手を出すと、ルージュは軽く握り返す。契約は成立し、夜が明けたら、ルージュは聖女達を連れて王国まで飛んでいく事が決まり、握手を躱す二人。
ザックが僅かにローブから見えた瞳。右眼は血のように紅い色をしていて、左眼は全てを見透かし、吸い込まれるかのような鮮やかな
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