ほとんど目が見えないという障害のためか、どうやら家族に捨てられたらしい人の、日々の独白の物語。
ひとことで要約するのが非常に難しいお話。分量はぴったり3,000文字と非常にコンパクトなのですけれど、でも一文一文のエネルギーが非常に濃厚で、その倍くらいの作品を読んだような充足感がありました。文章の滋養が高い!
もう何がいいってとにかく文章が素敵。読ませるというか読まされるというか、一見なんてことのなさそうな言い回しの中に、でもしっかり根付いたこの〝主人公の人格〟の感覚がすごい。単純に「大半の物事を匂いとして知覚する」というのも特徴的ではあるのですけれど、それをごく短くシンプルな表現でなお説得力を持たせる、この文章パワーによる下支えっぷりに惚れ惚れします。
内容、というか物語的には、やはりクライマックスの意外な告解のような「弟への何か」が好き。流麗な文章の流れの中に、突然ちょろっと混ぜ込まれたかのような、何か彼女の個を揺るがしかねない重大なこと。その瞬間、急に解像度が上がって色味が変わって見えるような感覚。堪能しました。モリモリ読まされちゃう文章の魅力が、悔しくも気持ちのいいお話でした。