第5話 武装探偵社 肆
「で、何が聞きたいンで?」
「全部!」
「全部つッたッて、分からねェンだよなァ……。」
あの後結局乱歩さんに捕まッたオレは、早々に白旗を揚げて二人に向き直ッた。
潔いのがオレの売りなんでね。
思考放棄?
……うるせー、文句あッかコノヤロ。
この人達から逃げきれた犯人を知らねェから諦めたンだよ察してくれや。
オレが天を仰ぐと、福沢さんが質問してきた。
「今まで何処で何をしていた?」
「アンタ達のトコ抜けてからずッとこの商売やッてますよ。」
答えれば、福沢さんが少し顔を顰めた。
寧ろ何でそんな顔されンだよ?
良い方法だろ?
情報屋ッてのは、顔と身元が割れなきゃ意外と楽な商売だ。
それなりのリスクは伴うが、ドップリ日陰に身を浸すデメリットに比べりゃァ軽いッてモンよ。
実際オレみたいな未成年だってゴロゴロ居ることだし。
「何故だ?」
「オレの為ですよ。前にもアンタ達に話したでしょ?」
オレの生きる理由とその価値。
作り笑いでそう言えば、2人は沈黙しちまッた。
いや止めてくンねェ?
すぐ静かにならないでほしいンだが?
アンタらとは気まずくなりたくねェンだよ!!
「それは、本当に私達のもとでは達成できない目的だったのか?」
「……さてなァ。」
実際、できたのかもしれない。
この人達と一緒に街の治安守ッて、顔も知らねェ誰かにお礼言われて、それだけでやりがいを感じて次の日も頑張るなんて。
そんな平和な道もあったのかもしれねェ。
……いや、無理だわ。
想像するだけで少し気持ち悪ィ。
「無理だよ。社長はヒロがそういう人間じゃないの知ってるでしょ?」
「……そうか。そう、だったな。」
「ハハッ、そんな顔しないで下さい。これでもアンタ達には命を救ってもらッた恩があるンだ。困った時にゃア力になりますよ。」
ウーン。
流石というべきか、乱歩さんはオレの事をよく分かッてる。
福沢さん。
悪ィけどオレに善人面は似合わねェよ。
さて、名残惜しいがそろそろ行かねェと今日中に挨拶回りが終わらなくなッちまう。
「ンじゃ、悪いですがオレはそろそろ行かねェと。引越しの整理もまだあるンで。」
「ああ。此方の都合で引き留めて悪かったな。」
「別にそう言われる程時間は食われてないですよ。元々こうなる事は目に見えてたンで。」
立ち上がり明るく笑ってみせると、福沢さんは少し眉を顰めた。
アンタらさァ、自覚してないだろうけど結構分かりやすいンだぜ?
「では、またのご贔屓宜しくお願いします。」
一度礼をして出入り口に向かう。
さて、次はこの下のうずまきッて店だな。
事前情報どおりなら……カフェだッたか。
オレ珈琲好きだから珈琲が美味かッたらいいな。
「ちょっと待って!ヒロはあっちから出なよ。」
呼び止められたので振り返ると、乱歩さんがオレが向かうのとは違う扉を指さしていた。
「はァ?何かあンのか?」
「いいから!あっちから出て!」
んん?
何でわざわざ別の扉から出る必要があンだよ?
オレと(恐らく)福沢さんが疑問符を浮かべている間に後ろからノックと扉の開く音が聞こえた。
「乱歩さん。この事件の報告書を……え?」
「んあ?」
扉の方を見ると、澄んだブラウンの瞳と目が合った。
冗談じゃねェ。
何でこんなトコに居ンだよ。
「……乾露?」
『ひろ!』
記憶の中の笑顔と目の前の人物の驚いた顔が重なる。
背筋に走る寒気と頬を伝う冷や汗を無視しながら、オレは余裕っぽく微笑ってみせた。
「……よォ、潤。」
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