第2話 武装探偵社 壱
太陽の光に照らされている赤煉瓦の建物。
思えばカフェもある此処のワンフロアにあの人が率いる「武装探偵社」があるのは、何だか面白いよな。
まあ、そんなことは置いといて。
「とッとと挨拶済ませて依頼をこなさなきゃなァ。」
オレは階段を登り、「武装探偵社」と書かれたプレートが掛けられているドアの前に立った。
はてさて、此処に来ンのは軽く六年ぶりだが一体どれだけ社員が増えたンだろうなァ?
少し胸を弾ませながらオレがドアを開けると、中には早速懐かしい顔がいた。
軽く手を振ると、その人は駄菓子を食べる手を止めて勢いよくこちらに飛んできた。
「やあ、久しぶりだねぇヒロ!ずいぶん背が伸びたじゃない!」
「ま、軽く六年は経ってるからなァ。アンタも相変わらず元気そうで嬉しいよ。あ、これ引っ越しそばな。」
自分より背の低くなった—いや、オレが高くなったのか—乱歩さんと握手して引っ越しそばを渡した。
「へえ、近所に越してきたんだね!あ、言わなくても用件は分かってるよ!社長と話してくるから少し応接スペースで待っといて!」
「おう、分かッた。」
乱歩さんが指さした先にあったソファーに座って一息つく。
階段登るの、意外とキツかったからな。
今度からはちゃんとエレベーターを使うかね。
「あの……。」
「んあァ?」
ぼんやりしていると、横髪の片方が長い白い髪の少年が話しかけてきた。
ああ、この顔は確か……。
「……貴方は、乱歩さんのお知り合いなんですか?」
「知り合い……まァ、そんなところだ。そういうアンタは此処の社員なのか?」
「はい!ついこの間此処に入社させてもらった中島敦といいます!」
中島敦。
名前を聞いて確信した。
人喰い虎として、区の災害指定猛獣になってた異能力者。
数日前に情報をある組織に「売った」から覚えてる。
しっかし、行方が掴めねェと思ッたら此処の所属になッてたのか。
……少しマズったかもしれねェな。
「へー、敦ねェ。オレはヒロ。アンタの好きに呼んでくれやァ。」
「はい!ヒロさん!」
ぱあああ、と擬音がつきそうな勢いで敦の表情が明るくなる。
……なァんか、騙されやすそうだなぁ。
そう思って少し笑うと、敦が不思議そうな顔をしてオレの顔を覗き込んできた。
「……何だよ?オレの顔に何かついてるか?」
「あ、いや、あの、ヒロさんは……。」
「ヒロ!社長が来いってさ!」
「おー、了解。今行くわ。」
良いところだったが、仕方ない。
オレは立ち上がって、何か言いかけていた敦に笑いかけた。
「悪ぃな、敦。また後で話そうぜ。」
何を言いかけていたのかは分からないが、遮ってしまったからな。
謝罪も込めて頭を軽く下げた。
「はい!また後で話しましょうね、ヒロさん!」
笑顔で見送ってくれる彼に軽く手を振って、乱歩さんの後ろについて社長室に向かう。
と、短い黒髪に金の蝶の髪飾りを着けた綺麗な女性が前から歩いてきた。
「乱歩さん!丁度いい所に……っておや、アンタもしかしてヒロかい?」
「んん?……あー!与謝野の姐さんか⁉︎」
久しぶりすぎて全く気づかなかッたわ。
え、六年前より綺麗になッてんじゃねェか?
女性ッて凄えなァ。
美しさに上限が無ェっていうの?
やべえよな。
「久しぶりだなァ!六年前より美人になッてッから気づかなかッたわ!」
「お世辞でも嬉しいこと言ってくれるじゃないか!有難うね。……それにしても随分と背が伸びたねぇ。いくつだい?」
「あー、170は越えてンだろうけどキッチリ測った事ねぇから分かんねェな。」
「なら後で医務室に来な。測ってあげるよ。」
「マジで⁉︎有難う!絶対行くわ!」
と、話しているうちにふと思う。
ああ、ナオミも大人になったら姐さんみたいに綺麗になるンだろうなァ、と。
ナオミは昔から近所の女の子の誰よりも可愛かッたし、実際見た目通りに愛くるしかったからそんじょそこらの女の子なんかメじゃなかッたンだよなァ。
下手したらこの世の誰よりも綺麗になるンじゃないだろうか。
ま、生きてるにしろ死んでるにしろまだ未成年だろうからもう少し待たねェといけねェっていうか、それ以前に会えるかどうかも分かンねェけどなハハハ……。
「それで与謝野さん!用件は?」
「ああ、すまないね。コレなんだけど……。」
おっと、考え込んでる間に2人の仕事の相談が始まったようだ。
オレは目を閉じてあらゆる外部の情報を遮断する。
いや、確かにオレは情報屋やって生計を立ててるがそれとこれは別なんだわ。
この人達の情報はアレだ、売ったらどんな目に遭うか分かッたモンじゃねェから売らねえッて決めてンの。
……だから数日前の「商売」はバレたら正直マズいどころの話じゃない。
「……成る程ね、分かった。アドバイスしてくれて有難うね。」
「これくらい僕ならできて当然だよ!じゃあヒロ、行こうか!」
「おう。んじゃ姐さん、また後でな。」
「ああ。後でね。」
オレは再び乱歩さんの後ろについて行く。
背後から微かに聞こえた「やっぱり似てるねぇ……。」という姐さんの声は、聞こえないふりをした。
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