第5話 佐伯さん 2
最近、佐伯さんは病室にいることが多い。
そんなの当たり前と言いたいところだけれど、ことこの佐伯さんに当てはめると病室にいないことの方が多い人だった。特に回診の時などいたためしがない。ところが最近は割と病室にいてくれる。その日の回診もおとなしく病室で本など読んでいた。そして私は佐伯さんを診察する。
「幸先生は、清彦先生のことを本当に愛しているんですか」
佐伯さんはまるで世間話でもするように切り出した。
「ええーどういうことですか」佐伯さんの質問が何を意味するのか私にはわからなかった。でも私は精一杯平静を装い尋ねた。
「いえ、べつに 深い意味ではないんです。ただお二人がとでも仲がよろしいので、どこかうらやましいのかもしれませんね」
「そんな」と言って私の顔が赤くなっているだろうと自分でわかった。
「でも」と言って佐伯さんの言葉が止まった。
そして私の顔を覗き込む。
その顔はけして不快なものではなく、むしろ優しく私のことを心配してくれる、身内のような感じだった。
「本当に愛しているんですか」そしてその言葉はその身内に戒められるような鋭さもあった。その言葉に私は凍りつく。
部屋に帰りながら考えてみる。なぜ佐伯さんは、私が本当に清彦のことを愛しているのかと聞くのだろう。私が清彦の事を愛していないように見えるのか。私の心の奥底にある一抹の不安、
愛してなどいない。ただ恩義から愛していると思い込もうとしているだけ。もしその事を言っているのだとしたら、なぜそんな事が分かるのだろう。
私がお父様の援助で大学に入るまで、私と清彦は一度の面識もなかった。私は一度の面識もない人と、医者にしてもらうことの交換条件で、結婚の約束をしたんだ。
そんなことはよくある話だ。見合いなんてみんなそうだし、愛なんて、育むものだ。そう思っていた。
でもそれは私が勝手に思っていたことだったのか
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