第10話 デート

 朝食を食べた俺達は彼女が行きたがっていた映画館へと向かっていた。どうやら、大きな映画館で流行りの映画を観てみたいらしい。子供の頃はともかく、高校になってからは初めて幼馴染としてかつ二人での外出に隣を歩いている彼女はどこか浮かれているように笑みを浮かべている。大抵部活の友人や、運転手の七海さんもいたからね。

 服屋のショーウインドウに反射する彼女は、量販店のワンピースだと言うのにまるでモデルの様に着こなしており、すれ違う男が二度見をするのも一回や二回ではなかった。そして、その隣を歩くのはモブキャラのような特徴の無い男……つまり俺だ。今日は一応デートという事もあり、髪をセットして服も上等なものを用意したのだが焼き石に水だろう。



「何自分をみてるのよ、早くいくわよ」

「はいはい。あんまりはしゃいでこけないようにね」



 俺は彼女に答える。何を考えているやら俺は……今の俺は彼女の彼氏役のようなものなのだ。だったら自信がないなんて言ってはいられない。俺とて仮にも彼女の家で執事をしてきたのだから。それにさ……彼女は俺を頼ってくれたのだ。だったら少しくらい自信をもたなきゃな。姿勢や表情を意識する。完全に彼女の真似だが、何もしないよりはましだろう。そう思っていると彼女は振り向いたままなぜか俺を見てぼーっとしていた。




「どうしたんだ、ボーっとして」



 前から来た人にぶつかりそうな彼女の腕をとっさに引っ張るとすっぽりと俺の腕に収まってくる。そして彼女はそのまま俺の胸に顔をうずめて「いきなりかっこよくなるの禁止……」とか言っている。



「何を言っているんだ?」

「うるさい、今日はいいけど、その髪型とそれをやるのは学校ではダメからね……」

「えっ……? それって?」



 髪型と姿勢をちゃんとしたくらいだよ。別にそんな特別な事じゃないと思うんだが……それより、彼女と抱き合ったままだからか柔らかいものが俺に当たるのと、姫奈からのいい匂いがやばい。俺と同じシャンプー使っているはずなのに……



「んんんんん……」



 俺は俺の愛馬が暴走しそうになったのでとっさに自分のふとももをつねって誤魔化す。俺が必死にこらえていると同級生くらいの子が俺達を指さして言った。



「いいなぁ、あの二人お似合いって感じだよね」

「私もあんなふうに抱き合いたいなー」

「うおおおおお」

「ちょっと、いつまで抱き着いているのよ」



 その言葉に俺達は距離を開ける。だけど、今お似合いって言われた。俺が姫奈と……彼女の顔を見ると恥ずかしそうに顔を赤くこそしているものの嫌そうな様子はない。その証拠に彼女の指は俺の服の袖をつかんだままだ。



「それで今日はどんな映画をみるんだ」

「ええ、これよ」



 俺が恥ずかしさを誤魔化すようにたずねると彼女が指をさしたのは『お嬢様は告られたい』という漫画が原作のラブコメだった。俺は読んだことはないが確か彼女の部屋に全巻あったはずだ。貸してくれと聞いたがなぜか断られたのを覚えている。

 確かあらすじはお嬢様と使用人の身分違いの恋だったはずだ。両片思いなのにお互いがお互いの立場を意識して、踏み出せないので、お嬢様の方が何とかして告白されようとするギャグが多めのラブコメである。

 もしかして、俺がエッチな漫画で姫奈との関係を妄想していたように彼女も俺とのラブコメを妄想していたりするのだろうか? などと思いながら彼女を見ると目をキラキラとして売店を見ていた。




「一夜すごいわよ、ポップコーンの味がたくさんあるじゃないの!! それにグッズもあるわよ。早く行きましょう」

「ああ、そんなに焦らなくても、ポップコーンやグッズもなくならないってば」

「私はキャラメル味がいいから、あなたはバター醤油ね、半分こしましょう」



 物珍しかったのだろう、俺は彼女に引っ張られるまま、売店へと向かうのだった。もしも……もしもだ、彼女が俺の事を好きっていうんだったら俺はどうするんだろうな……


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