第39話 どの映画観んの…って、え゛

「んで、目的地に着いたわけですが」




 あれから5分もしないうちに、俺たちは本日の目的である映画館へとたどり着いていた。


グイグイと手を引っ張ってきたから、案外早めの到着になったのは行幸と言えるだろう。


 駅前通りの一角にある商業ビルのワンフロアを丸々貸し切ったその場所は、既に多くの人で賑わっているようだ。




「あいたたた…」




 着いて早々さっさと繋いだ手を離した俺たちだったが、花梨は握っていた手をだるそうにプラプラさせている。


やってたこっちの手も割と痛みを覚えていたりするが、そこは男の意地ってやつだ。


花梨の前で弱みを見せるようなことはしなかった。




「うぐぅ…痛かった…全然ラブラブって感じじゃなかったし、恋人つなぎってこれ、ただのアイアンクローなんじゃ…」




「今日はなに観んの?いつも通りアニメかアクションものか?」




 ブツブツと愚痴を呟く幼馴染を華麗にスルーし、俺は聞いた。


今日のデートでなにを観るかについては花梨が自分が決めるからと昨日のうちに宣言されていたので、チョイスに関して俺は全くのノータッチだからだ。




 だからとりあえずいつも観るジャンルについて聞いてみたわけだが、俺と花梨のふたりで映画を観に来ることは初めてってわけじゃない。むしろよく来るほうだと思う。


 俺も花梨もアニメが好きで、それこそ春休みの時だってふたりでとある少年漫画原作の劇場アニメを観に来たばかりだ。


 あの時は観終わった花梨が感動からしばらく動けず、ボロ泣きしていたことが記憶に新しいが、そのアニメはどうやらまだ上映しているらしい。


 いっそ二週目突入もありかもなと思ったが、花梨は首を振っていた。




「ううん。それもいいなって思ったけど、それだとデートって感じしないし、今日は別のを観る予定だよ」




 へえ、それはちょっと意外だ。


 てっきりいつもと同じコースで行くかと思ってたんだが、どうやら花梨にもちゃんと考えがあるらしい。




「ふーん、じゃあやっぱり恋愛ものか?」




 言いながら、俺は上映スケジュールの表示された電光掲示板へと目を向けた。


 そこにはこれまた漫画原作の恋愛映画のタイトルが示されている。


 人気俳優の共演と銘打って、最近よくCMで見かけていたから覚えていたが、確かSNSでもそれなりに評判が良かったはずだ。原作を読んだこともあるが、普通に面白かったし、ハズレってことはないだろう。


 俺は恋愛ものは好きってわけじゃないけど、そういう意味ではデートには最適なチョイスかもしれないな。


 そう思ったのだが、花梨はまたもや首を振る。




「それも違うね。ありかなーって思ったんだけど…私、多分途中で寝ちゃうから…」




「お、おう…」




 そういえばコイツ、動きのない映画観るのは苦手だったな…


 なんか派手な爆発とか必殺技とかアクションないと、途端に眠気が襲ってくるらしい。


 気持ちはわからんでもないが、小学生みたいな感性が未だ続いているのはちょっと改善の余地がありそうだ。


 今度部屋でそこらへん考慮した映画選んで一緒に観るのもありかもしれない。


 そんなことをふと思っていると、花梨はひとつの作品を指さした。




「今日はね、あれを観るつもりなの!」




「ほーん…って、え゛」




 釣られて俺も視線を向けるが、俺はそのタイトルを見て絶句する。




『死霊の絶叫タイムリープコースター』




 それはどこから見ても、デートからかけ離れた、ホラーもののタイトルだった。

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