第34話 素直すぎるのもどうかと思う
「彼女?お前の?」
「ええ、そうです。この子と今日デートのためにここで待ち合わせしてたんですよ」
訝しむように聞いてくる男に、俺は答えた。
言ってることに間違いはないし、嘘はついていないから淀みはない。
「それでさっき着いて、彼女を探してたんですけど…もう一度言いますが、俺の彼女になにか用でもあるんですか?」
言い終わると同時に、俺は花梨に視線を寄せた。
話を合わせろという合図のつもりだったが、何故か花梨は両手を口に当てて驚いたようにこちらを見ている。
(え、なにそのリアクション…)
まさか俺が彼氏って言ったことを真に受けてたりしないよな?
普通はこの場を切り抜けるための嘘だってわかるはずだが、なんか徐々に顔を赤らめてるし、なんだか嫌な予感がしてきたぞ…
「マジかー…」
「ちぇっ、彼氏持ちかよ。次行こうぜ。邪魔したな」
予想外の反応を見せる花梨に戸惑ってると、ナンパ野郎の二人が舌打ちしながら、俺たちからそそくさと離れていった。
え、マジかよ。さっきまであんなにしつこかったじゃん。
俺が来ただけであっさり引くとかそりゃないだろ。
ここは「はぁ?お前がこの子の彼氏?全然釣り合ってないじゃねーか。似合わねー」とか言って突っかかってくるのがお約束なんじゃないの?
いきなり物分りの良さみせられても困るんだが。この空気どうしてくれんだよ。
逃げるなら最初からナンパとかしないでくれ。残されたほうの身にもなってみろよ。正直かなりいたたまれないぞこの野郎…!
「トウマちゃん…」
内心悪態をついていると、花梨が話しかけてくる。
遮るものがなにもなくなったため、正真正銘一体一だ。
改めて向かい合う形になったわけだが、どう声をかけたらいいのやら。
少しばかりの気まずさだけがこの場には残っていた。
「あー、悪い。遅くなった。そのせいで変なのに絡まれたみたいで、ごめ…」
「とうとう気づいたんだね!自分の本当の気持ちに!」
とりあえず一度謝ろうとしたのだが、途中で思い切り遮られてしまう。
え、なにいきなり。何言ってんのこの子。
なんかこの展開、覚えがあるぞ…
「え、あの」
「私の彼女って!彼女って言ったよね!私聞いたもん!ハッキリこの耳で聞いたもんね!やっぱりトウマちゃんはほんとはそう思ってたんだ!このツンデレさんめー!私のこと彼女だって…く、くふふふふふ!やっぱりそうだったんだ!!」
なにやら勝手にトリップし、ひとりで盛り上がる花梨。
どうやら俺の声なんて耳に入っていないらしい。
いや、ツンデレって。彼女とか、普通に嘘なんだが?
方便だよ。助け舟ってやつだ。わかるだろそれくらい。
素直で人を疑うことを知らないのは美徳だが、あの流れでその発想に至るのは素直にどうかと俺は思う。
「違うから。そんなんじゃないから。彼女って言ったのはああ言わないとアイツ等引かないと思ってだな…」
「いいからいいから!もう、そんな嘘つかなくていいんだよ。トウマちゃんのことを一番よく知ってるのは私だもん。今までは恥ずかしがってただけなんだよね。男の子にはそういうところがあるって、私はちゃんとわかってるからね」
駄目だコイツ。人の話を聞いちゃいねぇ。
全部自分の都合がいいほうに捉えてやがる。
花梨の脳内変換の都合良さに、俺は若干引いていた。
「じゃあさっそくお母さんに連絡するね!私とトウマちゃんが付き合うことになったら一番に知らせるって約束してたからさ」
「待てコラ。早まるんじゃない」
いつの間に取り出したのか、スマホを握り締めて恐ろしいことをのたまう花梨。
もはやナンパ野郎のことなんてどこかに飛んでいってしまい、俺は言質を取られまいと必死で幼馴染を止めにかかる。
そんなことをしていたせいか、さっきまで抱いていた胸のモヤモヤも、気付けばどこかに消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます