第31話  デートのお約束

「そういや明日は俺が花梨の家まで迎えに行けばいいのか?」




 デートに行くとは決めたものの、その前の行動をどうすればいいのかふと気になり、俺は聞いてみることにした。


 花梨と遊びに行く際は、いつもそうしていたからだ。それが当然だと、自然に思っていたわけである。




「え?」




「ん?」




 すると返ってきたのは疑問符のついた声。


 何言ってんだと、紙袋を脱いだ幼馴染の顔は語っていた。




「なに言ってんのトウマちゃん。正気?」




 とはいえここまで言われるとは思わなかったぞ。


 そこまで責められるようなこと言ったか俺。




「俺、変なこと言ったか?」




「言ったよ!デートなんだよデート!デートに出かけるのに相手を迎えに行くなんて聞いたことないんだけど!デートは待ち合わせが基本じゃんかー!」




 そう言ってプンスカと怒る花梨。


 なるほど、言われてみれば確かにそうだ。


 わざわざデート相手の家に出向いて一緒に出かける話は俺だって聞き覚えがない。




「確かにそうだな。悪かった。じゃあ登校するときみたく家の前で待ち合わせして…」




「ちーがーうー!わかってない!トウマちゃんはぜんっぜんわかってない!!!」




 ここは素直に謝罪して、改めて話を進めようとしたのだが、花梨はますます不機嫌になっていく。




「ええ…なにがだよ。待ち合わせは待ち合わせだろ?」




「違うのー!こういうのはね、駅前で待ち合わせるが普通なの!そして『待った?』『ううん、今来たところだよ』ってやり取りして、手をつなぎながらデートを始める!それが一般的なデートのやり方なんだよ!!」




 花梨はそう断言してくるが、今度は俺が顔をしかめる番だった。




「駅前って、うちからそこそこ距離あるじゃん。それなら一緒にいったほうが効率が…」




「そういうのはどうでもいいの!女の子の心を、トウマちゃんは全然わかってないんだから!女の子は効率とか気にしないし、重要なのはシチュエーションなんだよ!カップルらしいことをしているって思えることが重要なんだよ!家の前での待ち合わせじゃ、そういう特別感が全然ないじゃん!」




 うーん、確かにそう言われると花梨の言うことにも一理ある気がしてきた。


 どうも俺はデートというものをよくわかってないっぽいな。


 まぁ単純に花梨が相手だからというのも大きいと思う。楽しみではあったがそれはそれとして、いつものように遊びに行くという感覚が抜けきっていないというべきか。


 頭を切り替えることができていないなとはなんとなく思う。


 ただ、それを抜きにしても駅前で待ち合わせっていうのはなぁ。


 俺はなんともなしに、花梨のことをじっと見つめた。




「…………」




「ん?どうしたのトウマちゃん。いきなり黙っちゃって…ひょっとして、私に見惚れちゃった?」




 幼馴染の浮かれた言葉を無視して凝視を続けるも、やはり花梨は美少女だ。


 人目を惹く銀色の髪はもちろんのこと、容姿だって恐ろしく整っている。


 口を開けば残念だし、普段浮かべている表情があまりにもあどけなく、天真爛漫なものであるからつい忘れそうになるが、黙っていればとんでもなく可愛い女の子であるのは間違いない。




 それだけに、俺は花梨をなるべくひとりにしないように心がけていた。


 なんせ性格があれだからな。ほっといたら知らない人にフラフラついていってもおかしくない。


 ちょっと勧誘されたり困っているから助けて欲しいなんて声をかけられたら、こいつはあっさり騙されそうだからな。


 その姿が容易に想像できてしまい、思わず渋面を浮かべてしまうのも仕方ないというものだろう。




「…………待ち合わせに関してはわかった。だけど、ひとつ約束してくれ」




「え、それはいいけど…も、もしかして彼女らしく振舞えとか…?」




 期待に満ちた目を向けてくる花梨。


 なんでお前はそうポジティブなんだ。その前向きさが逆に俺は不安なんだが。


 もうちょっと自分を省みてくれないかなぁと思いながら、俺は口を開いた。




「いいや、知らない人に声をかけられても絶対についていかないと誓ってくれ。そうでないとデートはナシな。心配だから」




「子供扱い!?それはちょっとひどいんじゃないかな!?」




 それだけお前が悪い意味で信用できないんだよ。


 これに関してはおばさんに素直に同感できる。ひとりにするとどうなるかわからなくて危なっかしすぎるわ。




(何事もなく終わるといいんだがなぁ…)




 ギャーギャーと喚く幼馴染をなだめているうちに、早くも胸の内には不安が広がってくる。


 期待と不安がないまぜになったまま、俺たちは次の日を迎えたのであった。

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