第30話 アホの子は強い子元気な子

「ひとまず話はわかった。いや、ほんとはわかりたくないんだが…とりあえずおばさんには、花梨には他にもっといい男が見つかると思いますよと伝えといてくれ」




「うん、わかったよ…………ってダメじゃんそれ!私、遠まわしにお断りされてるんだけど!?」




 俺の返答に頷いたものの、数瞬遅れてその意味に気付いた花梨が、目を見開いて激高してくる。


 ちっ、気付かれたか。いけると思ったんだがな。


 ドサクサ紛れに銀髪親子を上手くだまくらかせるかと踏んだんだが、さすがにそこまでポンコツではなかったらしい。




「そうだよ?断ってるよ?」




「今度は直球!?そこは言い直すところじゃないの!?」




 なので次はストレートに伝えることにしたのだが、俺の言葉に花梨は思い切りたじろいでいだ。


 やっぱりコイツ、いいリアクションするなぁ…こうして感情を素直に表に出すところが、花梨のいいところだと思う。




「だって元々断ってるし、取り繕っても仕方ないだろ?俺とお前の仲で、今更そんなことしたところでなぁ」




「そうだけど!事実だけど!親しき仲にも礼儀ありって言うじゃん!もっと優しい感じで話してよぉ!」




 む、ことわざを使ってくるとは。


 意外とやるな、ちょっと舐めてたわ。とはいえこれ以上からかうのはちょっと酷か。




「じゃあ話すけど、とりあえずチケットの類は断っといてくれ。フリーパスとか貰っても困るわ。あと素直に気が引けるしな」




 高校生の身で旅行券とか貰ってもどうしろって話だからな。


 花梨とふたりで宿泊したところで万が一にも間違いが起こることは有り得ないからそこはいいんだが…一応警戒だけはしておこう。




「むぅ…わかったよ。でも、映画には一緒に行ってくれるよね?」




 花梨は少し不満があったのか、眉をしかめつつ頷いたが、次に口にした言葉には不安の色が混じっていた。


 どうやら映画の件も断られるんじゃないかと思ったらしく、チケットを握る手にも力が入っているように見える。


 ……そういうの、あまりやってほしくないんだけどな。なんだかんだ、俺はこのポンコツな幼馴染には弱いのだから。




「行くよ。チケットはもうあるんだし、用事もないしな。というか、花梨のほうこそいいのか?俺はお前の告白を断ってるんだぞ。気まずくなるかもとか思わないのか?」




 花梨の問いかけにYESと返すも、その際気になっていたことも一緒に聞いてみることにした。


 花梨のノリがあまりにもいつも通りだからつい普通に接してしまっていたのだが、本来告白なんてものはお互いの関係を一気に変えるような行いだ。


 今朝だって当面は気まずさが残ってしばらくは話せないんじゃないかと思っていたからな。


 まぁその考えは杞憂どころか、ロケットに乗ってぶっ飛んでったわけだけど。




 ただそれはそれとして、実際のところ花梨がどう考えているのか気になっているのは確かなのだ。


 さすがになにも考えていないってわけじゃないだろう。


 そう思っていたのだが、花梨は何故かキョトンとした表情を浮かべていた。




「え、なんで?」




「いや、なんでって…」




「さっきトウマちゃんもいってたじゃない。私たちの仲だって。気まずくなるなんてあるわけないじゃん。断られたからってそんなの関係ないよ。だって私、トウマちゃんのことが大好きなんだもん」




 そんなことを、花梨はあっさりと言ってのけた。




「………そう、か」




「うん。それにね、私諦めないから!信じれば夢は必ず叶うってテレビでこの前偉い人が言ってたし!ネバーギブアップってやつだね!」




 花梨はなにやら目をキラキラさせていた。




 いや、夢ってそういうものじゃないから。


 夢っていうのはプロ野球選手になりたいとか、もっと抽象的なやつだ。


 お前が言ってるのはどこの球団に入ってどの背番号が欲しいとか、そういう類のやつだからね。


 人はそれを願望という。似ているようで全く別物なんだよなぁ。あと俺の意志を完全に無視しているのはいかがなものか。




「全く、お前ってやつは…」




 思わず苦笑してしまう。


 やっぱコイツはアホの子だ。


 普通なら恥ずかしがるようなことをこうもあっさりと、臆面もなく言ってのけてしまうのだから。




「そういうわけだから、明日のデートは覚悟しててね!私のことを絶対好きにさせてみせるんだからね!」




 そしてこうも真っ直ぐな笑みを見せてくるのだから、俺はもうお手上げで、笑うしかない。




「……ま、頑張れ」




「あー!なにその他人事な感じ!見てろよー!絶対ギャフンって言わせるから!」




 早くも意図が変わりつつある幼馴染を押しとどめつつ、明日のデートが少し楽しみになってきた俺だった。

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