第18話 ぷくー三すくみ
花梨は昔から、感情豊かなやつだった。
喜怒哀楽がハッキリしていると言えばいいのか、とにかく考えていることが表に出やすい。
まぁ人に嫌われることが少ないタイプであるのは確かだろう。
一緒にいて退屈はしないし、とにかく見ていて飽きることのないやつである。
楽しいときはめちゃくちゃ笑顔を浮かべるし、へこむことがあったら目に見えて落ち込む。悲しい映画を見たならギャン泣きだ。
「ぷくー」
そして怒っているなら、ちょうど今みたいな表情を浮かべるのだ。
具体的には露骨に頬を膨らませ、目には不満を顕にして、なにやらそっぽを向いていた。
「…………子供か」
そんな花梨についツッコミを入れてしまったのは、長年の癖によるものだろうか。
良く言えば隠し事ができない、裏表のない性格で、悪く言えばアホの子であることはとっくの昔に承知してるが、さすがに高校生になってまでそれは、ちょっと子供っぽすぎやしませんか?
説明しようにも案の定無視されるし、その割にはこっちをチラチラ見てくるしで、やっぱり意味がわからない。
「チラッ」
あ、また見てきた。なんやねん。
「ん?神代さんなんか怒ってないか?」
「知らん」
久瀬が聞いてくるももちろんスルーだ。
ここまでくると、答えるのも面倒くさかった。
「頬を膨らませてる花梨ちゃん可愛い…」
「銀髪ポニーテール美少女の怒り顔…レアすぎんだろ…」
「属性過多すぎだろ最高かよ…」
…………。
周りも周りでめんどくせぇ……花梨のあれを全面的かつ肯定的に受け取ってやがる。
改めて思うが、顔がいいってやっぱ得だな。それだけで常時パッシブでバフスキルかかってるようなもんだし。
マイナスになるだろう要素も簡単にプラスに転じさせることができるとか、もはやチートだろ。マジずっこいわ。
「ぷくー」
「か、花梨…?どうしたの、いきなり…?」
「ぷくー」
「ちょっ、無視しないで!?」
なんかあっちはあっちで大変なことになってんなぁ。
柊坂、思い切り花梨にスルーされてるし。まぁ授業中、俺と一緒に教室に戻ってきたのは柊坂だし、俺を無視したなら連鎖的にああなるのはわかるんだが、さすがにちょっと可哀想かもしれん…
花梨に無視されて露骨に動揺しまくってるし、さらに言えば涙目になってるけど、普段コミュ障を誤魔化すためにクールキャラを演じているのにいいんだろうか。
あの調子では早々に化けの皮が剥がれないか心配である。いっそバレたほうがクラスにとけ込めそうだが、まぁそこは言わない約束ってやつだろう。
ひとまず俺は柊坂の今後を祈っていたのだが、
「うー…」
「おい、なんでそこで俺を見る」
こっち見んな。同情した傍から恨みがましい目で俺を見られても困るぞ。
衆目の中で堂々と声をかけてきたのはそっちだし、恨まれるのはお門違いというものだろう。
授業に遅れたのは確かに俺も悪かったけど、そこはフィフティーフィフティーってやつだ。
痛み分けで済ませてほしいのに、そこで俺を見てくるとか、また花梨に誤解されるだろうが。
てか案の定花梨は柊坂ガン見してるし。お前、そういうところは目ざといのな。
「ぷくー」
「うー…」
ほんとなんなの、この状況。
三すくみか。俺にもやれってか。にらみつけて防御下げるぞこの野郎。
だいたいお前、それしか喋ってないけどいいのか。語彙力ないにしても、限度ってものがあるだろうに。
「あのー、試合再開していいかな…?」
この状況でおそるおそるふたりに話しかけるチームメイトの女子達が、なんだか可哀想になる午後だった。
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