第17話 幼馴染はちょっとすごい
「エリスちゃん、パース!」
ダムダムダムと、連続してボールが床を叩く独特の音が大きく響く。
同時に走り回る多くの足音も、午後の体育館内に反響していた。
「花梨がフリーじゃん!」
「ちょっ、誰か止めて!」
そんななかで、一際目立つ存在がいる。
長い銀色の髪をリボンでまとめ、動きやすいようポニーテールにしているひとりの美少女。
言うまでもなく花梨だ。柊坂からのパスを受けると、ドリブルで一気に中央突破。
フェイントを織り交ぜたカットインで、相手チームのデイフェンスを切り崩すとそのまま一気にゴールを決めていた。
「へっへーん。これで10点目だねー」
「さっすがぁっ!」
「運動神経はやっぱりすごいね。動きヤバいもん」
ドヤ顔を浮かべながらチームメイトとハイタッチを交わす花梨。
俺の周りからも感心するような声がチラホラと漏れているあたり、他のやつから見てもやはり花梨の運動能力は段違いなのだろう。
隣に座る久瀬も「おー」という呟きを漏らして、目を丸くしていた。
「すげぇな神代さん。Dの女子全然追いつけなかったじゃん。あの子だけちょっとモノが違うな」
「まぁアイツは昔から運動神経おかしかったからな」
小学校の頃から犬と並走しても勝つようなやつだったことを思い出す。
勝ったのはいいものの、そのまま全てを置き去りにしてダッシュを続けた結果、迷子になって俺が迎えに行くハメになったことも同時に思い出してしまったのは余計だったが。
「やっぱ神代ってすげーのな」「ほんとほんと。あんだけ可愛くて運動神経良くて、おまけに性格もいいとか完璧じゃん。神代と一緒のクラスになりたかったわ」「付き合いてーなー。今フリーなんだろ?」
なんとも言えない気持ちになっていると、近くから花梨の話題が耳に入る。
どうやらD組の男子連中がだべっているらしい。俺たちと同じく、女子の見学をしにきたようだ。
今は体育の授業中。男女ともにD組との合同授業だが、男子は外でサッカー。女子は体育館でバレーとバスケに分かれてプレイしている最中だ。
人数の都合上、サッカーは2チームに別れてのクラス対抗戦となったため、時間を持て余した男子達はこうして体育館まで暇つぶしにきているというわけである。
「いや、神代って付き合ってるらしいぞ。いつも一緒にいるやつがいるんだとさ」
「え、マジかよ」
「マジマジ。放課後も一目散にそいつのとこ行くから、声かける隙もないんだってさ。告白もロクにできないって話だぜ」
「はー、ガードかってぇな。でもまぁ、いて当然っちゃ当然なのか」
とはいえ、いくら暇だからってそこまで話さなくてもいいと思うんだが。
勝手に耳に入ってくるとはいえ、妙に居心地が悪かった。
「なんだ。他のクラスでも噂になってんじゃん。良かったな三雲、周知され始めてんぞ」
「…………」
良くない。全然良くない。
俺は花梨と付き合うつもりないんだっつーの。
このままだと、既成事実まっしぐらじゃないか。
俺だって女の子と付き合いたい気持ちはあるのに、花梨以外の選択肢がなくなるとか、それは正直よろしくない。
パシュッ
「やったー!また入ったー!やったよエリスちゃん!」
「フッ、当然ね…って、花梨!抱きつくのやめ…」
憮然としていると、どうやら花梨がまたシュートを決めたらしい。
今度も柊坂のアシストが決め手になったようで、花梨が嬉しそうに柊坂に抱きついている姿が見て取れる。
「お、また決めたか。この試合、完全に神代さんの独壇場だなぁ」
「おお、眼福眼福」
「美少女が抱き合ってるの、いい…」
その光景に周りの男子が食いつくように見入っているが、その気持ちはわからんでもない。
外見だけならふたりは間違いなく超がつく美少女だ。中身を無視するなら、間違いなくうちの学年のツートップであることだろう。
(顔はいいんだよな、顔は。中身が残念すぎるだけで…)
「わーい!やったよ、トウマちゃ…」
ぼんやり眺めていた俺に気付いたらしい花梨が声をかけてこようとしたが、何故か途中で動きを止めた。
「ん…?」
「ぷくー」
「…………」
「ぷくー」
ああ、そういえば。
花梨さん、まだお怒り継続中だった模様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます