第16話 なんかそれっぽくまとまった話

「―――ってわけだ。結局、俺はアイツのことを幼馴染としか思えないんだよ」




 話し終えるのは、そう時間がかからなかった。


 昼休みもまだ終わっていない。だけど予鈴は鳴ったから、急がないと授業に遅れるかもしれない。


 それでも俺たちは、未だその場から動かずにいた。




「なるほど…」




「距離感が近すぎたんだと思う。今更、花梨のことを女の子として見ることができる気が、正直しないんだ」




 俺の言葉に柊坂は頷いていた。


 彼女は俺が話し終えるまで一言も口を挟んでこず、ただ黙って聞き入っていた。




「それで、あの子はなんて…?」




「絶対諦めないってさ。バカ野郎って捨て台詞残して帰ってった。それでもさすがのアイツにも気まずさはあるだろうから、しばらくは話しかけてこないと思ってたんだが…」




 さすがに神を名乗ってきたのは完全に想定外だった。


 ていうか、想定できたらそいつは間違いなく頭がおかしい。


 ……その頭おかしい行動を取ってるのがアイツなんだよなぁ。いかん、なんか泣きそうになってきた…




「三雲くん、大丈夫?なんか泣きそうになってるけど…」




「大丈夫だ。ちょっと育て方を間違えたことへの後悔と、アイツのメンタルの強さに脱帽しているだけだから」




「それ、大丈夫っていうの…?ていうか、本当に目線が身内のそれね…」




 実際、そうなのだろう。


 親よりも互いのことを理解しているのが俺と花梨だ。


 だからこそ、そういう対象として見られなかったわけだが…しかし、そう思うとますます疑問が深まっていく。




 花梨のやつ、なんのためにストーキングなんてしてくるのやら。


 そんなの相手のことを知りたいからやるわけで、俺たちの間で今更やる意味なんてないだろうに。


 素直に話しかけてくりゃいいんだ。今のアイツの考えが、俺にはサッパリ分からない。




「なぁ、柊坂はどう思う?アイツは、いったいなに考えてるんだ?」




 俺は一縷の望みをかけて聞いてみる。あるいは彼女ならわかるのかもと思ったのだ。


 花梨の親友である柊坂なら、俺には分からない花梨の行動について、なにかしら説明してくれかもしれないと、そう思った。


 だけど、




「さぁ、私には分からないわ」




 返ってきた言葉は、とても現状を打破してくれるようなものではなかった。




「…………そっか」




「そもそも、花梨が変な行動取るなんていつものことでしょう?ちょっと慌てすぎよ。私みたいにぼっちがバレるかの瀬戸際でもあるまいし、もっとドンと構えてるべきじゃないかしら」




 少しだけ落胆するも、後に続くアドバイスは的確なものだ。


 耳を傾けるも、何故だろう。あまり心には響かなかった。




「ありがとう、柊坂。とりあえずそうしてみるよ」




「そうしなさいな。そのほうが、きっと花梨にとってもいいはずよ」




 柊坂が言い終えると同時に、大きな音が辺り一面に響き渡る。


 午後の授業を告げる鐘の音だ。今から戻っても遅刻確定。怒られることは確実だろう。




「あちゃー…どうする?」




「私は戻るわよ。入学早々目をつけられたくなんてないしね」




「それは同感」




 顔を見合わせひとつ笑うと、柊坂は先に立って歩き出した。


 俺も慌てて後に続く。少なくとも、胸のつかえは少しだけ取れた気がした。




「ちなみについでに聞くんだけど、頭から紙袋被って神を名乗るやつがいたとしたら、そいつのことをどう思う?」




「なにその質問…有り得ないでしょそんな人。いたとしたら、間違いなくその人は頭がおかしいわ」




 ……ですよねー




「だよね、うん、俺も同意見だよ…」




「変なこと聞くのね…言ったそばから疲れた顔してるけど、大丈夫なの…?」




「うん、大丈夫大丈夫」




 空元気とはわかっているが、そう思わないとやってられん。




(しっかしアイツ、怒ってるかなぁ…)




 やや疲れながら教室に戻る途中、何故か思い浮かんだのは、頬を膨らませた幼馴染の顔だった。

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