第13話 はい、仲のいい子とペア組んでー

「ねぇ、どういうことなの!?なんであの子、朝からずっと私を無視するの!?何話しかけても返事をしてくれないのよ!?ずっと三雲くんのことじっと見続けてて、まるで反応ないんだけど!?おかげで私、今日まともに会話したはこれが初めてよ!?どうなってるのよ!!??」




 早口でまくしたてながら、柊坂は距離を詰めてきた。


 ロクに話慣れていない感じがいかにもコミュ障っぽい。


 よほど鬱憤が溜まっていたのか、既に涙目だ。


 もはや威圧感の欠片もない。というか、キャラの変わり様がひどすぎて、違う意味でギャップがヤバイ。




「えええ…知らんがな…」




 先ほどまでの柊坂には確かにあったはずの幻想的な雰囲気はもはや見る影もなかった。


 口は災いのもととも言うが、ここまでくると災厄と言っても過言ではないだろう。


 その対象が俺個人というのがすげー嫌だ。他のやつにもこの感覚を味わって欲しくて仕方ない。


 それくらいの残念っぷりを、柊坂は披露している。


 今の柊坂は美少女の仮面を悪い意味で投げ捨てており、、完全なるギャグキャラと化していた。




「おい柊坂、お前とりあえず一旦落ち着けよ」




「落ち着け!?これが落ち着けるものですか!?今の私、ぼっちなのよ!?知ってるでしょうけど、今日の午後はうちのクラスは体育があるの!」




 うん、それは知ってるよ?男子は確か外でサッカーだし。


 だけどそれがどうしたんよ。知ってるけど、体育の授業なんて学校に通ってたら週三回はあるじゃん。


 ソシャゲでいう周回イベントみたいなものだろ。いや、スタミナ消費っていったほうが近いんだろうか?まぁどっちでもいいだろう。さして変わりはないし、喉元過ぎりゃすぐ忘れるだけの一時間でしかない。


 なのになんで君はそんなに絶望的な顔をしているのかな?俺にはさっぱり分からないよ。




「はぁ、それがなにか…?」




「わからないの!?ええ、そうでしょうね!花梨がいるうえに高校に上がってもあっさり友達作れた三雲くんには、私の気持ちはわからないでしょうねぇっ!?」




 え、なんで逆ギレしてんのこの子。怖いんだけど。




「なら教えてあげるわ!耳かっぽじって聞きなさい!体育の時間っていうのはね!ぼっちにとって死活問題なのよ!戦争なの!最初に準備運動とかで二人組をまず組まされるのよ!?これはとんでもないことよ。あまりにも罪深い、悪魔の制度よ…」




「お、おう…」




 悪魔て。ちょっと言い過ぎでは?




「それだけでも苦痛なのに、ペアを組めなかったらどうなるかなんて、考えるだけでも恐ろしいわ……本当に、本当に…!この制度を考えた人間は、間違いなく悪魔よ。人の思考をしていない、狂った悪鬼羅刹に違いないわ…」




 え、そこまで?もはや暴言だろそれは。


 教育委員会の人たちから苦情がきそうなことを平然と口にすんなよ。


 絶対ただ効率考えてそうしただけで他意はないだろうに。


 てか、学校の授業について、あまりにも重く考えすぎじゃない?死にそうな顔してるんですけど。


 死活問題って、どんだけよ。




「適当な理由つけて休めばいいんじゃ…」




「そのことを考えたことがなかったと思う?私だってクラス分けの前は散々考えたわよ!だけど高校に入学したら花梨が同じクラスだったことで、私は勝ちを確信したわ。これで体育は楽勝だって、天にも昇る気持ちだった…もう勝ち確だと思っていたところでこれよ!?だいたい、仮病で休んだら花梨は他の子と組むじゃないの!?そしたら関わりと大義名分が生まれちゃうわ!あの子と組みたい子は多いのよ!?」




それはまぁわかる。朝の一件だけ見ても、アイツ人気はあるからな…なんか美少女持ち上げてるっていうよりは、マスコットを可愛がってるそれに近いように思えたけど。




「私は親友のアドバンテージを使って強引にペアを勝ち取ったけど、下手すれば、次の授業でもその子と組んじゃうかもしれないのよ!?そうなったらこの世の終わりだわ!?三雲くんは頭いいんだから、もっと頭使いなさいよ!?ぼっちの気持ちをもっと考えなさい!!」




「は、はぁ…」




 嫌な頭の使い方だ…なんでそこまで配慮せにゃならんのだ…




「それでも偶数ならまだいいわ。だけど、誰か休んだ場合は奇数で数が合わなくなるの。そうなるとね、最悪、先生と組まされるのよ…そして今日は実際にひとり休んでいる子がいるわ。それはつまり……考えるだけで、私は、私は……!あの子に無視されて組めなかったら、私はどうすればいいのよおおおおおっっっ!!!」




 叫びながら、柊坂はその場に頭を抱えてしゃがみこんだ。


 なにかトラウマがフラッシュバックでもしたのか、プルプルと震えてすらいる。




「…………」




「あああ…なんでこんなことに…せっかく花梨と同じ高校に入れて、同じクラスになれたというのに…ぼっちルートは確実に回避できたはずだったのに…悪夢よ、これは…」




 なにやらブツブツと呟く柊坂を、結果的に上から見下ろす形になったわけだが、内心めちゃくちゃ冷めていた。




「金髪だからって誰も話しかけてくれないし…私、生粋の日本育ちの日本生まれなのよ…海外なんて行ったことすらないわ…現地の人に仲間と思われて話しかけられたらショック死しかけないもの…この世はあまりにも非常だわ…」




 綺麗に輝く天使の輪を見ても、これっぽっちも心が動かされることがまるでない。


 むしろこの容姿の良さを持ってしてもここまで人はダメになれるのかと、いっそ戦慄すら覚えてしまう。


 プラスよりもマイナスの要素が、あまりにもでかすぎる。




(むしろこっちからすれば今見せられてるのが悪夢なんですが…)




 ついさっきまで可愛いと思っていた気持ちもどこへやら。


 百年の恋も冷めるとは、きっとこういうことを言うんだろうな…なんでこうも可愛さよりも、哀れみが優ってしまうのだろう。


 残念な気持ちですごく胸がいっぱいになる。




 …………いや、つーか無理だろこんなん!?


 あんな真っ当なヒロインとの邂逅っぽい雰囲気出しといてこれかい!?


 体育の授業なんざどうでもいいわ!俺の昼休みの時間返せよ畜生!




(なんで俺の周りはこんなに残念な子ばかりなんだ…)




 うずくまる柊坂を無視して天を仰ぐと、無駄に澄み切った晴れやかな空が広がっている。


 あぁ、初夏が近づいているなぁなんて現実逃避をかましつつ、この世の不条理をどこかにいるかもしれない神(自称ではない)へと大いに呪うのだった。

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