第11話 太陽と月
今日の昼休みの廊下は、案外人気が少なかった。
まだ休み時間は半分以上残っているため、未だ教室で談笑している生徒が多いのかもしれない。
行き交う人の数はまばらで、特にこちらが避ける必要もないくらいには問題なく歩けている。
先を歩く柊坂の足取りも淀むことなく正確で、止まることなく進んでいた。
「おい、どこまで行くんだよ柊坂」
とはいえ、もうかれこれ数分は歩いてる。
柊坂がどこを目指しているのは気になって声をかけたのも、仕方ないと言えるだろう。
たかが数分と侮るなかれ、昼休みの時間というのがどれほど貴重なものか、皆もとっくにご存知のはず。
久瀬に断りをいれて共に教室から出たはいいものの、無言で前を歩かれるというのも地味に居心地の悪さを感じるものだ。
「……」
俺の声に反応した柊坂は少しだけ振り返り、こちらをチラリと見るものの、それだけだ。
結局何も告げることなく歩き続ける。いいから黙ってついてこいと、二つに束ねたブロンドカラーの狭間で揺れる背中が語っていた。
(相変わらず不親切なやつだなぁ…)
中学の頃からそうだったが、柊坂のこういうところは変わらない。余計なことはあまり喋らないやつなのだ。
美少女という点では花梨と共通しているものの、花梨はよく喋るために友達も多いが、柊坂においては花梨以外とまともに会話を交わしている姿を俺はほとんど見たことがなかった。
まぁ俺はその理由を知っているからいいものの、そんなんだから未だに花梨以外のクラスメイトとまともにコミュニケーションを取れてないのもまた事実である。
(高校生になったら変わるんじゃないかと思ってたけど、こりゃ無理か)
内心嘆息するものの、本人が困っていないなら余計な口出しをすべきじゃないだろう。
柊坂は花梨とは違い、勉強もそつなくこなせるやつだ。
運動神経もいいし、こちらはガチの完璧超人といって差し支えない存在だろう。
そういう意味では、柊坂はまごうことなく高嶺の花と言えるんじゃないだろうか。
凛とした、どこか冷たい人形のように整った容姿と相まって、彼女はミステリアスな雰囲気が強い。
さらに近寄りづらい空気を発しているため、今は花梨の影に隠れる形になっているが、もう少し時間が経てばおそらく男子の人気を二分することになるだろうと予想している。
花梨が太陽とすれば、柊坂は月だろうか。
そう当てはめるのが、なんだかしっくりくる気がする。
髪色からすれば真逆なんだろうけど、ある意味これもギャップ萌えってやつじゃなかろうか。
(やはり金髪は王道だからな…)
これで性格がツンデレなら完璧なのだが、生憎とそうでないのが残念だ。
髪型はツインテールだし、そういう意味では惜しいんだけどなぁ…
などと余計なことをつい考えてしまうも、俺たちの歩みは止まらない。
まぁこれ以上余計な口出しをするのも野暮だろう。それ以上はなにも言わず、俺は渋々ながら柊坂についていくのだった。
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