第5話 神(自称)、早口になる
……お、落ち着け、俺。これじゃあ堂々巡りだ。キリがない。
とりあえず神の発言はスルーするとして…いや、いかん。
そもそもなんで俺はこいつが神だという前提で話を進めようとしているんだ。
事態についていけなくて、脳がバグってるのかもしれない。
こいつは神じゃない。ひとまずあれのことは神(自称)と呼ぶとして、まずは一旦落ち着かなければ。
少しでも冷静にならないと、頭がどうにかなりそうだ。
「……ところでその神様が、どうしてこんなところにいらっしゃるんです?」
とりあえず時間を稼ごうと、ツッコミどころ満載の神(自称)に話を促すことにした。
本当ならこの不審者には今すぐお帰り願いたいのだが、実力行使にでるのもなんか怖いし、話を聞くのが良さそうだと思ったのだ。
「フッ、よくぞ聞いてくれた。本来なら私のような神が人と会話をするなどありえないことだが、今日は特別に答えてやろう」
イラッ。
なんだその見下した態度は。
なんか知らんがすげー腹立つな。口挟まんけど。
「はぁ…それで?」
「今日はトウマちゃ…人の子と話があってここにきたのだ!光栄に思うがいい!神が人と対等に会話するなんて、本来は有り得ないことなんだよ!」
仰々しく両手を広げてるが、おいちょっと待て。
この神(自称)、今トウマちゃんとか言いかけなかったか。
「今、俺の名前を言いませんでした?」
「!?わ、私は神だからな!人の名前を把握くらいはしている!下らぬことをいうでない!」
俺がツッコミを入れると、明らかに神(自称)はキョドってた。
ほんとに神ならドッシリ構えとけばいいのに、威厳のカケラもありはしない。
あわあわしてるのが手に取るようにわかるようだ。
ていうか、この挙動には見覚えがある。めっちゃある。
「ゴホン!細かいことはいいから本題に入るぞ!お前の名は三雲冬真!翔成高校一年E組所属で、出席番号16番のいて座の15歳!血液型はAB型で趣味は幼馴染のお世話をすること!天邪鬼でちょっとめんどくさいところがあるけど、いざという時はとても頼りになる、超イケメン男子だ!そして隣の家には一緒に育ち、生まれてからずっとお前と同じ学校、さらには同じクラスに通うという、まさに運命の赤い糸で結ばれているといっても過言ではない、超一途な同い年の超絶美少女がいる…そうだろう!?」
誤魔化してる。
この神(自称)、めっちゃ誤魔化しにかかってる。
「…………超を多様しすぎな気はするし、やたら説明的だし早口だし、さらに言えば俺のこと褒めすぎだし詳しすぎて、正直ちょっと引いてるけど、神様が言うなら一応そうなるんですかね…」
それを理解すると同時に、頭の芯が冷えていく。
パニックになっていた思考が、冷静さを取り戻していくのを感じていた。
「うむ!やはりな!ちなみに幼馴染はお前と一緒の学校に通うために、超絶勉強を頑張ったのだぞ!後でまた大いに褒めるがいい!頭を撫でてやると、きっとさらに喜ぶはずだ。あと、ついでに今回のテストが全然わからず大ピンチっぽいから、またつきっきりで勉強を教えてやれ。いやほんと。お願いだから…三角比ってなに…?サインコサインブイサイン…?ちちんぷいぷい…?」
そうなると、見えてくるものもあるものだ。
具体的に言うと、神(自称)の首から下を見る余裕がようやくでてきた。
紙袋のインパクトがあまりにも強すぎて、神(自称)の衣服まで目がいかなかったのだ。
俺は神(自称)に気付かれないよう、ゆっくりと視線を下に落としていく。
「お、おっと、話が逸れちゃったね!今は勉強のことなんてどうでもいい!お前に話があってきたのだ三雲冬真!お前は今日、超絶スーパー美少女幼馴染からの告白を断った!そうだな!?」
果たしてそこにあったのは、黒のブレザーとチェックのスカートだ。
俺の今着ている高校の制服の女子版で、近隣の学生からは可愛いと評判な人気の高い制服だった。
「彼女はあんなにも勇気を振り絞って告白をしたというのに、お前はその告白を無下にしたのだ…ほ、ほんとに、あんなに頑張ったのに…勇気を出したのに…」
女の子座りをしているため、広がったスカートと黒のニーソックスの間から白い太ももが丸見えだ。
胸元は明らかに大きく膨らんでるし、格好からしてもどうやら神(自称)の性別は女であるらしかった。
「スタイルだって頑張って良くしたのに…美乳派とか…そういうことは先に言えよぅっ!」
声色も微妙に変えてるけど、これまた聞き覚えがあった。
ていうか滅茶苦茶ある。昔からずっと聞いてきた声だ。俺が分からないはずがない。
気付けなかったのは、よほど気が動転していたということだろうか。
「ちょっと!聞いてるのトウマちゃ…」
さらにいえばトドメというか。
紙袋の隙間から、髪が漏れてた。
サラサラと柔らかく流れる、銀色の髪が。
日本ではまず見かけない、それこそレアなプラチナブロンドが、主の見せる醜態を憂いているのか、なんとも哀しげな光を放っていた。
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