第4話  紙袋流ゴッドジョーク

 神。それは人ならざる存在。


 人の上に立つ上位存在であり、人知を超えた力を持つ全能の化身。


 程度の差こそあれ、多くの人が抱く神様への認識は大抵こんなものじゃないだろうか。




 ただ、力の強大さこそ理解していても、実際に神様がどんな姿かたちをしているのかと問われたら、その答えは案外バラバラなんじゃないかと思う。


 人と同じ姿をしていると答えるケースが一番多いことは間違いないけど、不定形だったり動物だったり、あるいはそもそも人の目には見えないんじゃないかという夢のない話とか、人間如きが神を計ろうなどど烏滸がましいみたいな、過激な回答もあることだろう。


 まさに千差万別ってやつだ。




 実際に存在しているかは分からない。


 だけど、もしいるならこうあって欲しいという期待。


 人を超える存在を恐れると同時に、超越者へと心の拠り所を求め、救いと希望に縋るある種の願望。


 どうしようもない現実への否定とこうであって欲しいという渇望が綯交ぜになって願いとなり、きっと世界中で多くの神々が生まれたに違いない。




 ちなみに言えば、俺自身はさして神様ってやつを信じているわけじゃない。


 誰しもがそうであるように、せいぜい困ったときに神頼みをするくらいだ。


 それだって姿を思い浮かべるわけでもなく、ただトラブルを回避できればなんでもいいという現実逃避が含まれた、刹那的な思考に過ぎなかった。


 喉元を過ぎてしまえばその考えは、一瞬で脳裏から消え失せる程度の、本当にささやかな願いである。




 俺みたいなちっぽけな存在を助けてくれるはずもないけど、いたらいたで別にいいんじゃないか。


 そんな極普通の日本人的な考えが、俺の根底にはあるんだと思う。




 とはいえ、全否定するつもりもない。


 信じる人にとって、神の存在は間違いなく真実であり救いなのだ。


 日本にだって八百万の神というくらい、色んな神様が存在している。






 だからまぁ、あるいは。






 俺の目の前にいるような、紙袋を被った神だって、いても…おかしくは…おかしくは…






「人の子よ。崇めなさい!この神を!!」






 いやおかしいだろ!!!???






 必死に自分を誤魔化そうとしたけど、無理だこれ!


 なんかそれっぽいこと言ってこの紙袋を受け入れようとしたけど、できるはずがねぇ!




 こんなん見せられたら正常性バイアスだってぶっ壊れるわ!


 むしろコイツを否定することこそが正しいのだと、本能と五臓六腑が訴えかけてきてんだよ!




 あーもういい限界だツッこむぞ!


 だいたいなんで神が紙袋を被ってんだよ!


 額に神とか、誰に向けてアピールしてんだ!!


 怪しいよ危ないよ変態だよ!こんな神様嫌すぎるわ!




「…………神?」




「神」




 もはや存在全てが意味不明すぎて思考がパーになり、とりあえず聞き返すも、オウム返しで投げ返された。


 いや、なんの要領も得られないんだけど。キャッチボールしてんじゃねーんだぞ!




「神すか」




「神っす。我が名は神。マイネームイズゴッド」




 紙袋は頷いて答える。


 表情がわからないのに、何故か向こう側のドヤ顔が透けて見えるのは俺の気のせいなんだろうか。


 いや、マイネームて。神は普通名詞であって人名じゃねーだろ!?というツッコミ待ちかこれ。


 わけわかんねーよ。




 それともこれは所謂ゴッドジョークなのか?


 上位存在にしか理解できない、高度な笑いなのかもしれないな。


 しかし、紙袋被ってる時点でシュールの極みだと思うんだが…疑問符ばかりがついて回るぞ…




「ところで人の子よ。マイネームとマヨネーズって、語感が似ていると思わないか?」




 どうでもいい。


 心底どうでもいい。


 クッソどうでもいいわ!




 マヨネーズだろうがマカロニだろうが、今この場でする話じゃねーだろ!!


 大体紙袋のどっから飯食うんだよ!?下からか?下からなのか!?


 だったら今から冷蔵庫までダッシュして、取ってきたマヨネーズ突っ込んでやろうかエセ神が…!


 ツッコミどころが満載すぎて、今にも血管がぶちギレそうだ。




「ハァ、ハァ…」




「ん?どうした、息を荒げて。神に発情でもしたの?」




 うるせぇざけんなこの野郎!!


 こっちはお前に直接ツッコミたくても怖いから我慢してるっていうのに、これ以上ツッコミどころを増やすんじゃねぇ!いい加減はっ倒すぞ!




 そもそもなにあざとく首を傾げてやがるんだ!


 ゆるキャラでも自分のアピールポイントくらい把握してるもんだぞ!


 お前のは断じてそこじゃねぇ!


 お化け屋敷の井戸の底でパワースポットにでもなってろ!もしくはレジに鎮座して魔除けの置物ならぬ紙袋と化して然るべきだろうが!!!




 そもそも紙袋に発情するような特殊性癖に仮に目覚めたとしたら、俺は即座に舌を噛み千切って死を選ぶ。


 平凡な男子高校生が受け入れるには、あまりに業が深すぎるんだよ…!




「ぐぅぅぅぅ…」




「だ、大丈夫?なんかすごい顔してるけど」




 それはひょっとしてギャグで言ってるのか?


 顔を紙袋で隠してるやつに言われたくねーよ!


 お前もお前で、違う意味ですごいんだよ!!!

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