後編
「ヴィル、本当に馬鹿ね」
再度ベティーナから呆れた顔を向けられる。
何度も言わなくても分かっている。
もう二度と同じ間違いはしない。
「アメリー、モール商会は僕の宝だ。商品も大切に扱ってくれる人のところにあるべきだ!」
「は?あぁ、大丈夫よ。たぶん大切にするわ」
「大切にしようと思うなら自分で買ってくれ!」
これが僕からの最後の優しさだったのに。
それなのにアメリーは分かってくれないようだ。
「どうせそこの悪役令嬢になんか吹き込まれたんでしょ!」
悪役令嬢?ベティーナが?
僕やモール商会のことを懸命に考えてくれている彼女が悪役だと。
「お飾りの妻になって子供を産んだ後はヴィルマーに殺されるのよ!事故と見せかけてね!」
何を言ってる…。
僕がベティーナをお飾りの妻にする?
事故に見せかけて殺す?
「へぇ、そうなの?」
「するわけないだろう…」
「そうよね」
くすくすと笑うベティーナ。
「アメリー、頼むから消えてくれ」
「消えるのはそっちの女でしょ!」
「僕はティーナと話がしたいんだ!」
「なんでよ!悪役令嬢なのよ!」
「僕からしたら悪役は君だ!」
縋ってこようとするアメリーの手を払った。
怒りで真っ赤になり、ギリギリと歯を食い縛る姿はまるで化け物のようにも見える。
「そもそも僕のことなどお金目当てなのだろう!」
「そうよ!なにが悪いの!」
「僕の大切なティーナは一度だって僕に何かを強請ったことなどない!お金目当てじゃない!」
「そうね。私はヴィル目当てだったかしら」
一瞬で怒りが消えて行く。
アメリーの事なんかどうでも良くなった。
「私はヴィルが婚約者になると聞いたから縁談話に乗ったの」
「ティーナ」
「貴方は物を、人を大切するということが出来る人だから」
優しく笑いかけてくれるベティーナを見て、胸が締め付けられた。
ドキドキする。
これは紛れもなく恋だ。
「アメリー、今すぐ消えてくれ」
「なっ」
「じゃないと君が言ったように君を事故に見せかけて殺してしまいそうだ」
初めて殺気を覚えた。
それが伝わったのだろう、アメリーはゆっくりと後ろに下がって行く。
「なんで!なんで上手くいかないのよ!」
訳の分からないことを叫びながらアメリーは出て行った。
「良かったの?」
「あぁ…。あれに入れ込みかけたのは僕の失敗だ」
「二度目はないと?」
ゆっくり頷く。
「ねぇ、ヴィル。取引しましょうか」
「なにを…?」
「取引内容はお互いを大切にすること。成功報酬は結婚」
どう?
楽しそうに笑うベティーナ。
この笑顔を守り続けたいな。
出来ることなら生涯かけて守りたい。
「必ず成功させ続けてみせるよ」
「私も成功させたいわ」
君との初めての取引。
いつか子供が出来た時に聞かせてあげたいな。
~ fin ~
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