中編

翌日、僕はベティーナに謝ろうとした。

彼女の教室に訪れると居ないと首を横に振られた。

休み時間の度にティーナの教室に訪れたが、決まって居ないと返される。


「どうして…」


避けられているのかもしれない。

僕がアメリーに入れ込んでいるという噂はあったから。彼女からすれば、商売には関係ない噂だからどうでも良いのかもしれないが…。


「くそ…」


会いたい。会って謝りたい。

大商会の息子といっても僕は平民だ。

許してもらえるなら土下座でも、なんでもしてやる。だから…。


「ベティーナ、許して欲しい」


放課後の一人残された教室で呟いた。


「嫌ですよ」


声に振り返ると馬鹿らしいといった表情をするベティーナが立っていた。


「許して、くれ…。なんでもするから」

「私と婚約破棄をしてと言っても?」


さっと全身の血が引いて行く。

言った張本人であるベティーナの表情は変わらず僕を見下ろしていた。


「何でもするなんて発言はやめた方がいいわ」 

「あぁ…」

「それから貴方は馬鹿ね」

「僕もそう思う…」


大切な婚約者を放置して他の女の子に入れ込んでいたなんて馬鹿らしい。


「貴方の名前に傷が付けば商会の名前にも傷が付くのよ。分からないの?」

「それは…」

「貴方はもっと自分を大切にしなさい」


商会のことだけを考えているなんてどうして思っていたのだろう。


「ヴィルが傷付くのは悲しいのよ」


ベティーナは僕のために傷付いた顔をしてくれてるじゃないか。


「ごめん、ごめんなさい…」

「これが商談だったら取り返しが付かないわよ」

「そう、だね…。その通りだ」


こうやって僕の間違いを優しく言ってくれる。

僕が二度と同じ間違いを犯さないようにしてくれてる。

なんでその優しさに気付かなかったのだろう。


「そういえば貴方が入れ込んでいたあの子の噂を聞いてないの?」

「噂…?」

「王太子殿下や公爵子息、後は騎士団長子息にも言い寄ってたらしいわ」


なんだと…。

そんな錚々たる顔ぶれの中にいる僕は…。


「貴方はただの金蔓ね」


やっぱりそうか。だからあの時、商会に連れて行った時にあんな我儘を言ったのか。


「僕は人を見る目がないな…」

「そうね」

「ティーナの優しさに傷付けず、あんな馬鹿な女に入れ込んで…」


本当に僕は馬鹿だなぁ。


「あっ、ヴィルマー!」

「アメリー…?」


なんでここに居る。

今はベティーナと話をしないといけないのに!


「ねぇねぇ、また商会に連れて行ってよ。この前のことは許してあげるから。なにか頂戴?」


こんな馬鹿な女に!

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