騎士団長子息編

前編

俺の名前はトラウゴット・フォン・ルックだ。

ルック伯爵家の一人息子。

そんな俺には婚約者がいる。

名前はレオニーだ。

レオニー・フォン・リヒベルク伯爵令嬢。


騎士団長同士である親達の仲が良く決まった婚約。

別にそれに不満はなかった。貴族は結婚相手を好きに選ぶことはできない。それは昔からの約束事。

むしろ俺達のように利益など考えず親が仲良しというだけで婚約する方が珍しかったし、俺はレオニーと仲が良かったら幸運だったのだろう。


俺は小さい時から父のような騎士に憧れた。

レオニーも同じでよく二人で剣の稽古をした。そしていつの間にか俺は剣でレオニーに勝てなくなっていた。それが苦しかった。だから俺はあいつが苦手になってしまった。


距離を取り始めた後、学園に通うようになった。

俺もレオニーも同じクラス。でも話さない。

代わりによく話すようになったのは隣のクラスのアメリーという平民の女の子。

レオニーとは違い守りたくなるような子。

だからなのか、俺はレオニーよりも彼女を意識するようになっていったのに。


「剣の稽古の後に近寄らないでもらえるとありがたいかな~!汗の匂いとか無理だから!」


にこにこと愛らしい笑顔で酷いことを言うアメリー。

俺は君の騎士になるために努力しているのだぞ。


「ごめん…」


嫌われたくなくてその場を後にする。

あれがレオニーだったら笑って『無茶しすぎちゃダメだよ』とタオルをくれるのだろう。

レオニーは女の子らしさがないわけではなかった。

むしろ気遣いの出来る良い子だった。

ただ剣の才能があって俺に勝ってしまったのだ。


「レオニーと剣の稽古がしたいな」


最後に二人で稽古をしてから俺は努力した。

その努力の結果をレオニーにも見て欲しいな。

すぐにレオニーの元に向かう。しかしクラスには姿が見当たらなかった。


「屋敷に行けば会えるか?」


そう思ったが何故か会わせてもらえなかった。

レオニーの家の使用人が「今更ですか」と呆れていた。


「他の女生徒に懸想していると聞きました」


そう言われて俺は顔が真っ青になる。

確かに俺はアメリーが気になっていた。守ってやりたいとも思っていた。

だけどっ!俺は、俺の隣に立って欲しいのはレオニーだ!

そう考えてようやく自分にとってレオニーの存在が大切なのかよく分かった。


「くそ!レオニー…」


頼む。俺が悪かった。

何度でも謝るから許してくれ。

俺がもっと強くなるから許してくれ。

気がつけば、俺の頭からは簡単にアメリーという女の子の存在は消えていた。


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