後編

邪魔者の登場に思わず舌打ちをしてしまう。


「呼ばれてますよ」

「今はアンと話してる」

「でも…」


僕らのことなど考えずに近寄ってくるアメリー。

アンゼルマを抱き締めているところを見た瞬間、怒りでなのか真っ赤になった。


「なんであんたがフォルカーに抱き締められてるのよ!悪役令嬢でしょ!」

「悪役令嬢…?」

「彼女にそう言われたんです。貴方と彼女が仲良くなり始めた時に」


どういうことだ。

アンゼルマとアメリーが話しているところは見たことがない。

いつ、どこで、何と言われた?


「二ヶ月程前、放課後の教室で、『貴方は悪役令嬢だからフォルカーに捨てられるわ!娼館に売り飛ばされるのよ!』と言われました」


僕の言いたいことが分かったのか腕の中に居たままのアンゼルマが教えてくれた。

何を、なんてことを彼女に言ったのだ!

あのクソ女!

しかし何も気がつかなかった僕も同罪だ…。


「すまない。アン」

「良いですからあれをどうにかしてください」

「あ、あぁ…」


アンゼルマを抱き締めたままアメリーを見ると怒りに顔を歪めた。

酷い顔だな。醜いぞ。


「あんたは嫌われるのよ!既に嫌われてるんじゃないの?」

「いい加減にしろ。僕がアンを娼館に売り飛ばすだと…。言って良い事と悪い事の区別も付かないのか貴様は!」


初めてアメリーを睨んだ。

憎かった。そして自分の愚かさにも気が付いた。

こんな女に一瞬でも懸想しかけた自分を消し去りたい。


「フォルカー?」

「僕の名を呼ぶな。僕達の前に2度と現れるな!僕の大切なアンを傷付けるな!」


言ってから気が付いた。

僕は、僕はアンゼルマを、アンを…好きなのか。


「な、なに言って、私はヒロインなのよ?貴方の恋の相手なの」

「ふざけるな。私が恋をした相手も恋して欲しい相手もアンだけだ。次はない」


ようやく僕の言ったことを理解したのかそそくさと逃げていくアメリー。


「…大切な、ですか?」

「アン…」

「大切にしてもらった覚えがないのですが」


その通りだ。

冷めた顔をしたアンゼルマが腕の中に居た。

過去は変えられない…。だが、未来は変えられる。


「すまなかった。本当に…」

「全く…。駄目な人ですね」


背中を優しく撫でられて、笑われる。

あぁ、やっぱり好きだ。


「次はないですよ?」

「二度と間違えない」

「言いましたね?」

「もちろんだ。この約束を破れば…そうだな。僕を男娼館に売り飛ばしてくれ」


驚いた後にくすくすと笑い始めるアンゼルマ。


「良いでしょう。本当に売り飛ばしますからね?」

「それくらいされないと次は反省出来ないからな」

「まずその状況にならないようにしてください」


背中を抓られてるが痛くはない。

むしろ戯れつかれているようで楽しい。


「全く、他の方に会う前にその腑抜けた顔をどうにかしてください」

「あぁ…。それは昔も言われたな」

「貴方を立派な公爵様にするのが私の目標ですからね」


手を引っ張られる。

いつも私の背中を押してくれていた手が私を引っ張っている。


「行きますよ、フォルカー」


この方が前よりもずっと幸せだ


~ fin ~

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