公爵子息編
前編
僕の名前はフォルカー・フォン・ブレドウ。
由緒正しいブレドウ公爵家の嫡男。
僕には幼少期より決められた婚約者が居る。
名をアンゼルマ・フォン・ハーゼと言う。
ハーゼ侯爵家の娘である。
小さい頃から僕は彼女が苦手だった。
何をしても僕より優秀で、いつだって周りに褒められていたアンゼルマ。
そんな彼女を僕が敵視するのには時間が掛からなかった。だから僕は彼女に言った。
「僕の婚約者なら僕より前に立つな」
最低な言葉だったと今なら思う。
それからは僕の言った通り、僕を前に立たせるように後ろをついて回るアンゼルマに気を良くしていた。
そんな生活が続いたまま僕達は学園に入学した。
そこで僕は運命とも呼べる人に出会った。
名をアメリーと言う。
僕より秀でてなく優しくて愛らしいアンゼルマとは違う女の子。
次第にアメリーと過ごす時間が多くなっていった。
そして時を同じくしてアンゼルマを蔑ろにし始めた。
「先程の授業、なかなか面白かったな」
授業が終わり放課後のカフェでお茶をしながら笑いかける。
しかしお茶の相手であるアメリーは苦笑い。
更にはどうでも良いって顔をされる。
「フォルカー、そんな話より今度買ってほしい物があるのだけど」
…嘘だろ。
しかも急にお強請りまで始めたぞ。
「だが、先程の経済論は…」
「その話つまらないって!私寝ちゃったもん!」
頭が痛くなった。
僕より優秀じゃないことは分かっていた。だが、あんな楽しい話を理解出来ないとは思わなかった。
これがアンゼルマなら…?
きっと楽しく話せていただろう。
彼女との意見交換は有意義なものだったから。
「ねぇー、欲しい物だけど」
「悪いが僕は勉強がしたい。もう行くよ」
そう言って彼女から立ち去る。
……久しぶりにアンゼルマに会うか。
今日の授業について楽しく話したいと思っていたのにアンゼルマは既に帰ったという。
「僕に挨拶もなしに、か?」
彼女がそんな非常識な真似をするはずがない。
校内を見て回ったが確かに彼女の姿はどこにも見当たらなかった。
「なんで先に帰るんだ…」
帰るなら帰ると言っておいて欲しかったのに。
私達は婚約者だろう?
「……アンゼルマ」
途端に顔が見たくなった。
彼女のことを考えるだけでドキドキする。
なんだこれは…。
「僕から会いに行くか…?」
そう言えば、僕から彼女の家に遊びに行ったことはない。招待されたら行くということにしていた。
今更その決まりを破りたくはない。
つまらないプライドがそうさせてしまった。
「明日になれば、また会えるだろう」
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