中編

結局あの日はアリーナに会えなかった。

次の日もその次の日も探してみたが会えなかった。

完全に避けられていると気がつくのに一週間はかかった。

それでも謝ることを諦めきれないある日の昼休み。

中庭の木陰で休んでいると近くにいた令嬢達の声が聞こえてくる。


「ねぇ、聞きました?」

「いきなりどうなさいましたの?」

「アリーナ様、ついに殿下との婚約を解消するみたいよ」


は?

今誰が誰との婚約を解消すると言った?

いや、私の聞き間違いかもしれない。


「アリーナ様、ついにあの方と結ばれるのですね」

「前々から慕っていたと仰っていたもの」


アリーナが誰を慕っている?

しかも前々から?

どういうことだ。

彼女は私を、王太子を慕っていたはずだろう?


「どういうことだ?」


気がつけば彼女達に話しかけていた。

とても驚いた表情をされる。

当たり前だ、私は王太子なのだから。

きっとアリーナが居たら、また小言を言われるのだろうな。

『テオ、急にご令嬢達を驚かせるような真似はやめなさい』

『貴方は王太子なのよ?もっと自覚なさい』

そんなことを言われるのだろう。


「急に驚かせて悪かった…」


そんな言葉がするりと口から出てきて自分でも驚いた。

って、そうじゃない!今はアリーナの噂だ!


「その、アリーナには好きな男がいるのか?」

「え、えぇ…」

「そう聞きましたけど…」


話を聞いたと言う二人が頷いた。


「相手は誰なんだ」

「そこまでは…」


知らないのか。

じゃあ、彼女達に用はない…。

『テオ、お礼を言いなさい』

アリーナだったらこう言ってくるのだろう。

王族に感謝させるなど失礼ではないかと思ったが、ここは学園だ。王族だろうが、貴族だろうが、平民だろうが皆が平等に扱われる場所。

話を聞かせてもらったのだからお礼を言うべきだ。


「話を聞かせてもらい感謝する」

「え…」

「はい…」


何故驚く。いや、驚いてもおかしくないか。

私は誰かに感謝の言葉を自分から言ったことはない。いつもアリーナに言わされていたから。


「アリーナは良い婚約者だな」


そう呟いて立ち去る。

彼女達が作戦は「上手くいきそう」だと笑っていたことも知らずに。


「しかしアリーナはどこにいる…」

 

授業を受ける教室は一緒だ。

だから、授業中は見かける。しかし、終われば目を離した瞬間に消えている。

不思議なくらい自然と消えている。


「あれは…」


学園の中央に位置するところにある噴水。

あそこで告白をすれば恋が叶うと言われている場所。

そこにアリーナはいた。

私が知らない男と一緒にいたのだ。


「まさか、本当に私以外の男を好きだと言うのか…」


どっちが告白をする気なのか知らないが止めなくては…!

気がつけば私はみっともなく走り出していた。


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