第七話 〜迷子の二人〜

桜咲さんに誘われる形でショッピングモールに買い物に来ていた太陽そらは、一人で自分のいる場所すら分からずにいた

到着早々に人混みに流された太陽そらは、桜咲さんと逸れた後、必死に探し回り〝結果〟今に至る


人と逸れた際には〝下手に動かない方がいい〟と昔聞いた事があるが、まさに今の状態こそ〝その結果〟だろう

そんな状況で途方に暮れて、近くにあった椅子に俯きながら座ると、ため息を溢す

そんな太陽そら


「迷子ですか、お兄さん」


と優しく話しかけてくる女の子の声が聞こえる

それに対して『僕の様子を見て〝心配〟で話しかけて来たのだろうか?』と考える太陽そらが声の方向を向くと


「実は私も迷子なんです!」


とツッコミたくなる様な事を、明るく笑顔で答える小中学生くらいの〝誰かに似ている〟少女が立っていた

しかし、ここまではっきりと〝私も迷子〟と言い切るあたり清々しいとも言える

まぁ見方によれば〝能天気〟や〝天然〟とも言えなくはないが…

そんな少女が太陽そら


「それで実は私、その逸れた連れを探してて!

良ければお兄さんも一緒に探してくれませんか?」


とお願いをする

そんな急な事に太陽そらは〝見知らぬ人に急に物を頼むなんて…この子の危機管理は大丈夫か?〟と不安になったのか


「あの、自分で言うのはアレなんだけど

いきなり見知らぬ人に物を頼むのはどうかと思うよ…」


と呆れた様な仕草を取りつつも、警告する様に告げる

それに対して笑顔を浮かべながら


「それに関してはご安心ください!

私、人を見る目には自信あるんで!

あ!そうですよね、自己紹介がまだでしたね!

確かに名前も知らないのはお兄さんも不安でしょ

私、うみって言います!

太平洋の〝洋〟と書いて〝うみ〟

お兄さんの名前も伺って良いですか?」


と何か〝名前も知らない人〟のお願いを避ける為に〝言い訳をしてる〟と誤解したのか〝元気〟で〝陽気〟な勢いのまま自己紹介を終える

その勢いに押されてか、それとも名前の〝うみ〟の呼び名に近親感を覚えたのか太陽そら


「はぁ、僕の名前は太陽そら

〝太陽〟と書いて〝そら〟だよ」


と潔く自己紹介を済ませた

それを聞いたうみ


太陽そらさんですね!

じゃあ一緒に逸れた〝連れ〟を探すのよろしくお願いしますね!」


とほぼ強制のノリで話が進み、太陽そらはそれに乗る形でうみに付き合う事になった




しばらく一緒に歩いて探していたが、途中からただ普通に探すだけではなく


「でもせっかくショッピングモール来てる事ですし、色々周りながら探さないと損ですよね!」


と言ううみの提案で〝服屋〟や〝本屋〟〝ゲームセンター〟などかなり寄り道をしながら周る事になった

それから色々楽しく周りながらも、結局連れとは会えず最初にうみと会った休憩スペースまで戻って来ていた


「色々周れて楽しかったですね!」


とショッピングモールを堪能した様にうみが呟く

それに対して太陽そら自信も楽しかった…〝のだが〟


「いやうみちゃん目的変わってるって!」


とかなり打ち解けた友達と接する様に、ツッコミを入れる

それに対してうみ


「あ!そうでしたね!太陽そらにぃ

えへへ、すっかり忘れてました」


といつの間にか〝普通に友達〟と過ごしている様な口調で返した

そんな会話をしながら、休憩スペースで休む二人だったが急にうみ


「うーん、あらら

コレ、囲まれてますね」


と呟く

それに対して太陽そら


「え?囲まれてるって…誰に?」


と状況がいまいち分からないので聞き返す

すると考えるような顔でうみ


「うーん、悪い人達じゃないですかね?

多分、私目当てかな?この感じ…

昔から〝連れ〟の関係で巻き込まれる事が多くて〝悪意〟には敏感なんですよ〜

あ!太陽そらにぃを信じた理由もこの〝悪意〟を感じる私の〝カン〟が、お兄さんからは何も感じなかったからなんだ!」


太陽そらを初めて会った時に信じた理由と、今の置かれている状況を分かりやすく伝える

そんな状況下で一人のヤクザ風のおじさんがうみに近づいて来た


「なぁお嬢さん、お嬢さん〝アレ〟の妹だよなぁ

〝アイツ〟には散々酷い目にあっててねぇ

ワイらの商売もあがったりなんだわ

だからお嬢さんに少し〝お兄さん〟の仕返しを手伝って欲しくてねぇ」


と告げるとゆっくりと手を伸ばす

その手をうみは弾き飛ばす様に払い除けると


「すみませんが、私

あなた方に着いていく義理も無いので

用があるなら〝やまとにぃ〟に直接言ってくれる

それとも、直接やり合うのは怖いのかしら

どうせ〝やまとにぃ〟に負けた〝負け犬〟さんなんでしょ?」


と笑顔を浮かべながら、この状況で強気に煽りながら答える

それに対してヤクザ風のおじさんは


「お前、こっちが下手に出てりゃ良い加減にしろよ!」


と強引に肩を掴むと〝いいから言う事を聞け〟と引っ張った

その瞬間、ヤクザ風のおじさんとうみの前に、太陽そらが割って入る


「やめて下さい!嫌がってるじゃないですか」


そう叫びながらヤクザ風のおじさんの前に立つ

するとヤクザ風のおじさんは、うみの肩を掴んでいた逆の手を握りながら、手の甲で太陽そらを思いっきり殴り飛ばした

次の瞬間、太陽そらは勢いよく地面に転がる

顔に直接入ったこぶしの勢いで意識が朦朧としているが、コレまで受けて来た〝虐待の日々〟が、無意識に咄嗟の受け身をとって大事には至っていたないようだ


「誰だよコイツ、うざっていなぁ」


そう吐き捨てるようにヤクザ風のおじさんが言いながら、巻き込んだ事で殴られた太陽そらを心配そうに見つめるうみの腕を


「ほら、さっさと来い!」


と言いながら引っ張る




…次の瞬間だった

ヤクザ風のおじさんはちゅうを舞って数メートル先に飛んで行った

あんな人がちゅうを舞って飛んでいくのを、初めて現実で見た気がする

しかもあの一瞬で掴まれていた腕を、当人達に気付かれる事なく外し蹴り飛ばした手際は見事と言う他ない

そんな驚きの光景の中


「人様の妹に手ェ出してんじゃねぇ」


と聞き覚えのある声がここ一帯に響いた

その声の方向に太陽そらが目を向けると、そこには〝あの〟平塚ひらづかやまとが立っていた

近くでは平塚ひらづかやまとの〝監視役〟らしき人達が周りのヤクザ風の人達を押さえつけている

その後ろから太陽そらに一つの影が駆け寄る

どうやら桜咲さんのようだ


「大丈夫か、太陽そら


その問いかけにやっと意識が戻って来た太陽そら


「うん、大丈夫だよ」


と笑いながら返すのだった




その後の流れはかなりスムーズだった

捕まったヤクザ風の人達は通報を受けた警察によって牢屋に入れられた

話によると昔、やまとが壊滅した暴力団の人達だったらしく、うみを餌にやまとを痛めつける予定だったと言う

あの後、太陽そら


「私たちのいざこざに巻き込んでごめんね」


うみやまとを連れて一緒に謝りに来ていた

太陽そらはまさか一緒にいた〝うみ〟が〝あの〟やまとの妹だったとは知らなくて、かなり驚きながらもこんな事になったのに対して少し〝不安〟や〝恐怖〟がぎる

しかし連れられてきたやまとは意外にも


「巻き込んで悪かったな

妹を助けようとしてくれてたのには

お礼を言うよ、本当にありがとうな」


と物凄く優しい口調で〝謝罪〟と〝御礼〟を言う

コレは多分、やまと太陽そらがクラスメイトとは一切気づいていない、と言うか元々学校でいつも寝てて知らない可能性すらある

ただやまとの性格上〝妹〟を含めて家族に〝めちゃくちゃ甘い〟のも関係してるだろう

そんな意外な一面に太陽そら自信驚かされながらも謝罪を受け取り今日は家に帰る事となった


ちなみに買い物に関しては太陽そらうみが遊んでいた間に、桜咲さん達も色々周って終えていたらしく、いざこざの後すぐに家に帰る運びとなった

結局、家に帰った太陽そらは今日一日は、かなり楽しくも大変な日だったからか、疲れてすぐに休むのだった

そんな太陽そらの一日の成果に、携帯の友達リストには新たに〝うみ〟と〝やまと〟の名前が増えているのだった

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