第四話 〜約束〜

夏休みに入ってしばらくしたある朝

掃除を終えた太陽そらはふと玄関の方へ足を運ぶ

玄関を開けた先には、太陽そらにとって見慣れた光景が映る

そんな太陽そらを見つけると、いつものように夏生なつきがただ頭を下げて謝る


「本当に申し訳なかった」


そう深く頭を下げて心の底から謝るのだ…

そしてそれが本心からの謝罪である事は、毎日来ていた夏生なつきの覚悟を見ていれば、太陽そら自身も充分なほど理解している

だからだろうか、太陽そらはその日初めて夏生なつきに声を掛けた


「もういいよ、もういい

そんなに謝ってもらわなくてもいいよ

君の気持ちは受け取ったから、、、

今でもまだ〝いじって来てたあの恐怖はある〟けど君が〝心の底から〟謝ってくれた事は伝わったから、だから…だからもういい…」


その時だった、太陽そらがまさか声をかけて来るなんて思いもよらなかったのだろう

夏生なつきはその言葉を聞いて何か緊張の糸が切れた様に、その場に泣き崩れながら


「本当に、本当にごめんなさい、本当に、本当に、ごめんなさい、ごんなさい、本当にごめんなさい」


と何度も何度も謝り続けたのだった




…それからしばらくして、やっと夏生なつきは落ち着きを取り戻した

その様子を見ていたのか桜咲さんが玄関を開けて出て来る


「二人ともいつまでそこにいるんだ?

取り敢えず中に入っておいでよ」


そう言いながら家に上がる様に声をかけると、桜咲さんはスタスタと中に入っていった

取り敢えずその後をついて二人とも中に入る

しかし家に入ったはいいものの、さっきの状況からのこの急展開である〝ここから何を話したらいいのか…〟二人の間には静寂が流れていた

そんな沈黙の中で桜咲さんは、冷蔵庫から麦茶を出しながら


「そういえば名前なんだっけ?」


夏生なつきに対して問いかける

それに一瞬ビクつきながら夏生なつき


「あ、涼乃すずの夏生なつきです…」


と何処かよそよそしく答えた

その光景を見れば二人の間で〝何かあった〟のは明白なのだが、特にそれについて太陽そらは気にする様子もない

そんな太陽そらに桜咲さんが小声で


太陽そら夏生なつきちゃんとは仲良くなれたのか?」


と囁いて来る

太陽そらはそれに〝まぁ一応〟と軽く頷くと、桜咲さんは〝そうか〟と言いながらホッとした様な優しい表情を浮かべた




それからしばらくは沈黙が続いていた

時間にするとものの数分程度なのだが、太陽そら達には、数時間にも感じる長い時間に感じている様だ

その時間の中で〝勇希〟を振り絞った太陽そらは口を開く


「「あのー」」


しかしその言葉は、同時に口を開いた夏生なつきと重なり再び気まずい雰囲気が流れた…

先に均衡を破ったのは夏生なつきだった


「あ、あのさ、太陽そら

さっきはごめんね、あんな泣きながら…」


そう恥ずかしそうに、でもしっかりと答える

それに対して太陽そら


「い、いやこちらこそ…

こっちこそ今まで無視しててごめん」


と頭を下げて謝った

それに対して夏生なつき


「いや、こちらこそごめん!

太陽そらにはあんな事してたんだ、僕なんか無視されて当然だよ…」


と俯きながら言い放つ

そんな姿を見てた桜咲さんが


「いやいや、二人ともいつまで謝ってんの?

さっきから〝謝っては謝り返して〟って

それイタチごっこになってるやん!」


とツッコミを入れる

それを聞いた太陽そら


「・・・確かにそうだね

これじゃあ、いつまで経ってもイタチごっこだ」


と呟きながら何かを決めたのか


「なぁ、涼乃すずの

これまでの事はもう水に流して

これからはお互い仲良くしないか?」


そう言いながら片手を差し出す

その意外な行動に夏生なつきは少し驚きつつも


「本当にいいの…」


と言いながら泣きそうになるのを堪えて聞く

それに無言で太陽そらは頷く

すると夏生なつきは両手で太陽そらの手を掴むと


「うん…水に流す

だから…これからは、仲良くしようね」


と涙目になりながら笑顔で握り返した

それを見て少し太陽そらは〝ドキッ〟としながら目を逸らす

そんな太陽そら夏生なつきは何かを思い出したかのように


「そういえば僕…

夏休みの宿題を終わらしてて暇なんです…

だから、えーと、あの、、、

謝罪を受け入れてくれて、これからも仲良くしようと言ってくれた事、すごく嬉しくて…

それで、だから…

今までは謝罪の為だったけど

せっかくだし、また明日も会いに来ていいかな?」


と少し照れた様子で問いかける

その発言があまりに突拍子だったからだろうか

流石の太陽そらも少し間があったが


「・・・うん、いいよ

僕も宿題終わって、明日の予定ないし!」


と明るい笑顔で答えた

それを見て夏生なつき


「そ、そう、それなら、また明日

お昼頃の集合でもいいかな?」


と嬉しそうに聞き返す

それに対して太陽そら


「うん、それで大丈夫だよ!

じゃあまた明日、お昼からね」


と言いながら少しギクシャクしながらも、二人は遊ぶ約束をしてその日は解散したのだった




その日の夜、夕食を終えてゆっくりしていた太陽そらに一本の電話が掛かってきた

電話に出るといきなり明るい口調で話が始まる


「やっほ〜!太陽そら、元気にしてた?

僕はねぇ・・・元気だったよ〜!クスクス

そうそう!今日電話したのはね〜

太陽そらも〝アレ〟に参加するかの確認なんだ〜」


そんな感じにいきなり話が始まる

もちろん相手はふうである

それに対してもう慣れた様子で、特に気にする事もなく太陽そら


「こんばんはふう

ところで〝アレ〟ってなに?」


そう挨拶をしながら話の中にあった〝アレ〟について、何のことか分からず聞き返していた

それに対してふう


「ほら!僕らの通ってる高校主催の〜

特殊制度!親睦会&勉強会!の事だよ〜

ちなみに〜僕はね〜勉強は面倒だから〜

親睦会だけ参加予定なんだ〜ワクワク

それで太陽そらはどうするのかなぁ?

なんか美味しいお菓子とかね〜

い〜っぱい出るみたいだけど

一緒に行けたらいいな〜、って思ってたんだ!

それでその確認の〜電話したの〜」


とお菓子の事を考えながら、嬉しそうな表情で話しているのが目に浮かぶ口調で返答する

それを聞いて太陽そら


「確か終業式に校長先生が言ってた一大行事〝第一学年 二泊三日!夏の親睦会〟…だったか?

そうだな…それってゆきも来るのか?」


と思い出しながら、ふと確認する様に問いかける

それにふう


「うん!一緒に行く予定だよ〜

だってね〜料理部や家庭科部?

あと茶道部の部活メンバーがね!

屋台開くらしいんだ〜

だからゆきにいっぱい奢ってもらう為に誘ったんだよ〜」


と即答で答える

その返答に太陽そら


「なるほど…わかった!それなら僕も行くよ!

ゆきの奢りなら行かなくちゃな!」


と少し考えはしたがすぐに、ゆきの奢りに関して悪ノリする様に答えた

それを聞いたふう


「ほんと?やった〜!

じゃゆきにも伝えとくよ〜」


と、とても嬉しそうに答える

その後で何かを思い出したかの様に


「…あ!そうだった!それ以外でどっか〜

ゆきが一緒に遊ぼ〜って言ってきててね!

太陽そら!もしよかったら僕の家で〝お泊まり会〟しよ〜!」


と楽しそうに答える

それに対して太陽そら


「お泊まり会?」


と意味は分かるが〝なぜ?〟と言う疑問を投げかける

それを説明する様に


「そうだよ〜お泊まり会!

学校主催の〝親睦会〟は〝自由参加〟で〝学校宿泊も可〟って言ってたけど〜

〝参加〟はしても〝あのクラス〟と〝お泊まり〟はね、まだ太陽そらも嫌だと思うんだ〜

だから〝親睦会〟と別で〜

『〝お泊まり会〟開こう!』ってゆきと話し合ったんだ〜

僕らは親睦会前は暇だからね〜

それに〜三人だけでも会って〜

遊びたかったしね〜」


と穏やかな口調でふうは答えた

その気遣いに対して太陽そらは納得した様に


「なるほどね、了解!いいよその予定で

僕も〝親睦会〟前は暇だしね!」


と答えるとふうは嬉しそうにしながら


「やった〜!

じゃ、また時間とか決まったら伝えるね〜

じゃぁまたね〜!」


そう言い終えるとふうは電話を切るのだった

電話を終えた太陽そらは八月にある学校主催の〝親睦会〟やその前に企画している〝お泊まり会〟に少し〝期待〟をしながらも寝るまで再びゆっくりと過ごすのだった

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