第三話 〜夏生の意志〜

家に来ていた夏生なつきを乗せて、家まで送り届けていた桜咲さんは、運悪く赤信号に引っかかっていた

運悪くと言うのは〝田舎にある信号は何処も青信号になるまでの時間が長いのだ

そんな状況で間がもたなかったのもあるだろう

ふと桜咲さんは


「きみ、名前は?」


と問いかけるように話しかける

それに対して落ち着いた様子で


涼乃すずの 夏生なつき、です」


と答えると桜咲さんは


「今日はどうして朝から家の前にいたんだ?

・・・と言ってもさっきの見たら予想はつくけど…」


と少し声のトーンを落としながら夏生なつきを見る

その目は笑ってもないし、ひどく鋭い怒りに満ちたものだった

その態度にビクつきながらも夏生なつきは小さく、でもはっきりと口を開く


「ど、どうしても謝りたかったんです

僕は太陽そらのクラスメイトだったから、最初はいじられてる太陽そらは可哀想だなって…そう思ってました

でもだんだんエスカレートしていく行為に止める勇気も出せなかった…

次第にはクラスだけでなく他の生徒もいじり出して、歯止めが効かなくなっていった

それを見て僕は怖くなった、もし太陽そらから標的が僕にでも変わったりしたらと思うと…

だから僕も一緒になっていじめてしまった」


そう告げながら夏生なつきは助けられなかった〝弱さ〟と流されて〝いじめ〟を行った〝後悔〟や〝情けなさ〟で表情が暗くなっていく

そんな酷い表情で夏生なつきは、桜咲さんに顔を向けて話を進める


「そんな中、同じクラスメイトで太陽そらの親友であるゆき達が言ったんです。

〝自分可愛さにいじめてるやつも、それを見て見ないふりしてる奴も全員、、、太陽そらの事を考えてない!最低なやつだよ!〟って

そんな事をいつも聞いてたけど

いや、聞いていたのに!

…それでも僕は太陽そらを〝いじめ〟てしまった

そんな事が続いて今回、改めてこの問題が明るみになった時思ったんです

僕は何してるんだろう、本当に最低なやつだって…

謝っても許されないのは知っているんです

それでも僕は謝らないといけない…

謝りたいんです!ただの〝身勝手〟で〝自己満足〟かもしれませんが、それでも僕のしてきた事で苦しめてしまった太陽そらに〝直接〟謝りたいんです

あの後に僕を含めた〝いじり連中〟は確かに謝ったけど、僕個人として改めて謝りたいんです…」


そう言いながら少しづつ声は小さくなる

それを桜咲さんはただ全部静かに聞いていた

そして言い終えた夏生なつきに小さく


「そうか、、、なら明日も来たらいい」


そう言い終えると、こう続けた


「何度でも何度でも謝ればいい、後悔も懺悔も沢山すれば良い

人は前に進む為に振り返って自分を見つめ直す機会も必要なんだ

出来る事があるならそれをし続けろ!

…しかし、その思いは届かないかもしれない

それでも生きて行くために、この先同じ過ちを犯さないために、しっかりと自分の過去と向き合って乗り越えて未来を明るく生きてく為にも、、、

何度でも謝ればいい、太陽そらが許さなくても、心から謝り続ければいつかは思いが伝わるかもしれない

でも今しないとそんな未来もないんだ

今しなければならない事を〝しないで後悔〟するより〝して後悔〟する方がよっぽどいい…」


そう言いながら桜咲さんは少し暗い顔をして、夏生なつきとの話を進める


「人はいつ何があるか分からないんだから、出来る内に出来る事をしていけばいい

例えば親に対して子が反発してても、一言〝ありがとう〟と言ったら親は嬉しいし

そんでもって親が死んだ時に子は〝その〟たった一言の〝ありがとう〟って言葉を言ったか、言ってないかで、救われもするし後悔し続けたりするんだよ…

だから今いる誰かに、今できる何かを、必死にし続けられるなら、それをする事はそれだけで価値があるんだ

君は間違ってる事に気が付けた

そしてその間違いに償える様に努力してる!

他の誰も〝いじめてた連中〟でここまで太陽そらに対して謝りに来た奴なんていない

だから君のそう言った行動は間違ってないし必ずむくわれるはずだ

だから自分を責めるな、謝っても許されない事をしたかもしれない、けどまだ償えるんだから少しづつでいい

自分の一歩で歩んでいけばいいんだから

また明日も謝りたいと思うなら謝り続けたらいい

俺も応援するから」


と言いながら頭を撫でる

それに夏生なつきは下を俯きなぎら


「ありがとう、ございます」


と今にも消えそうな声でお礼を言うのだった

それに桜咲さんは微笑みながら、ようやく青信号に変わった道路を進み出したのだった




それからも夏生なつきは毎日、太陽そらに謝りにくるのだった

雨の日も晴れの日も何度も何度も…そして今日も

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