第七話 〜新たな運命〜

あれから少しして落ち着きを取り戻すと、太陽そらは泣き終えた赤い目を擦った

その間も青年はただ静かに太陽そらのことを横で見守り続けてくれていた




しかしそんな太陽そらの落ち着いた様子を見て、青年が不意に


「落ち着いた」


と優しい口調で問いかけて来る

どうやらかなり長い間泣き叫んでいたのだろう

少し心配だったようだ

今更だが冷静に振り返ってみると、人前で太陽そらがあれほど大泣きするのは、飼い猫のクロを殺された時以来だろうか


太陽そらもそんな事を思い出したのか、急に小っ恥ずかしくなって、無意識に両手で赤くなった顔を隠していた

それからしばらくして、ようやく落ち着きを取り戻すと、それを待っていたかのように青年が


「大丈夫、、、落ち着いたかい」


と心配そうに問いかけてくる

そう言われて再び恥ずかしい気持ちが込み上げてくる

ただあまり蒸し返して欲しく無い太陽そらにとって、親切心で問いかけてくる青年の〝純粋無垢な問い〟は悪意が無い分〝言い返しができないから〟たちが悪いと感じていた

だから太陽そら


「うん、もう大丈夫だから気にしなくていいよ」


と笑顔で返して、それから一つ深呼吸をしてようやく、気持ちを落ち着かせた

そんな太陽そらに青年は


「ねぇ、もう自殺はしないかい」


と少し心配そうな表情で問いかけてきた

太陽そらはそれを聞いて少し黙り込むと、心の中でこれまでの事を思い出しながら頭の中を整理し始める




太陽そらが青年の話を聞いて、一番に考えたのは生き方を変えることだった

今は〝不運〟を呪って生きている様なものだが、まず初めにそこから〝幸せ〟を探す事に視点をおくことにしたみたいだ

色々考えたが、あまり出てこないみたいだ…


ただ太陽そらには心配してくれる親友が二人もいるし、秘密基地には話し相手もいる

それを考えると意外と周りには味方になってくれる人がいる事に太陽そらも気づいたみたいだった


それからもう少し太陽そらは考えていたが、最終的には自分の人生が不運だけでは無いと思える様になっていた

それは幸せな事も確かに小さくても〝そこ〟にあったことに気づけたからだと思う

それが不運という暗闇に差し込む〝一筋の希望の光〟だと太陽そらは強く感じていた

だからだろうか


「そうだ人生はやり直せるんだ、今からでも遅くない、ここからやり直せばいいんだ」


太陽そらはそう、無意識に口から溢していた

それからすぐに立ち上がると青年の前に立ち


「僕はもう自殺はしないよ」


と優しく生きる力に溢れた元気な声で答えた




それはその瞬間の出来事だった


生きようと決めた瞬間に物凄い突風が山を吹き抜けたのだ

とっさに足で踏ん張ろうとしたが、突風が強すぎて気がつくと崖から足が浮いていた

次の瞬間、太陽そらの目には空が見えた


「う、うわー」


と叫び慌てる太陽そらにあの時と同じように

目の前には空と、崖から落ちたはずの背中に地面の感覚があった


「大丈夫?」


横から座ってそう聞く青年に、助けられた太陽そらは青年を見上げながら


「あ、ありがとう」


とさっきまで気にならなかった、異様な現象に驚きつつお礼を言った

青年はそれを聞くと右手を差し出す

太陽そらはただ無言のままその手を掴むと、青年は力強く引き揚げ、立たせてくれた

すると


「自殺は辞めてくれたんだね」


と嬉しそうに青年が微笑み呟いた

太陽そらはそれに対して


「うん、もう自殺はしないよ」


と再び強く青年に言った

すると青年は


「そうか、そうか

なら今は〝不運な人生〟に苦しめられていた君じゃ無い

君はこれから〝新しい人生〟を歩むんだ

だから・・・」


そう呟きながら青年は優しく微笑むと


「君の新しい運命じんせいに幸あらん事を」


と告げた

その一瞬だった

岩陰の隙間から青年に御光が差し、その光に太陽そらが目を瞑った本当にその一瞬だった

目を閉じて開いたその光景には、青年の姿はどこにも見えなくなっていたのだった


太陽そらはそんな不思議な光景を見つめながら、何か肩の荷が降りたように軽い体の感覚を感じるのだった




それから少しして太陽そらは、乱狂山らんきょうざんを下山し、山の麓に着くと太陽そらは目を疑った

さっきまで行く時も帰る時もあった〝あの〟一本道が見えなくなっていたからだ

太陽そらはそんな不思議な光景を目に焼き付けながら、来る時とは正反対の晴れやかな気持ちでその場を後にしたのだった

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