第六話 〜在り方〜

話し終えた青年の〝言いたい事は言い終えた〟と言う表情をみて、太陽そらはふと話の矛盾を感じた

だから青年に無垢な子供のように


「でもそれは、、、

幸せに気づけるだけで、僕は不運でそれを全部失ってしまった状態のままだよね

君の言う幸せは〝失った幸せ〟に〝気づく事が出来る幸せ〟だよね?

普通の人生ではそれを失う事が少ないから

〝両親〟〝信頼〟〝安全・安心〟〝平穏な日々の日常〟〝誰も差別ない平等な暮らし〟など、、、

そう言ったものを失って、本当に大切なものが何か〝気づけて幸せだね〟と君は言ってるだけだよね?

それはあくまで〝気づく事が出来る幸せを持ってる〟で〝僕自身が幸せ〟と結び付かないと思うんだけど…

だから〝僕が幸せ〟とは違うんじゃないかな?」


と首を傾げ問いかけた

その時の様子を見ていた青年は、太陽そらの〝無表情〟から、背筋が凍るような寒気を感じた

だからその問いを聞いて青年は、少し考え込むように黙り込んだ




それから少しして何かを決心し終えると、青年はその沈黙をやめて


「・・・確かにそうだね

言われてみれば僕の考えは〝本当に小さな幸せ〟に気づいても

君はそれを持たないから〝本当に幸せ〟とは言えないのかもしれない…

でも僕はこうも考える

〝幸福〟か〝不幸〟だけが大切な事ではないと」


と言い終えると、一息整えて


「本当に大切なのは〝幸福〟〝不幸〟の価値観でなく

〝どう思い、どうあるのか〟

不運と嘆くのではなく

それから知り、それから学び

何を大切にして、これからどう〝あり続ける〟のか

不運と嘆くのではなく、不運だからこそ

本当に〝大切な幸福〟を知る事が出来るから

自分の人生を不運と片付けるだけで、その一生を終えるのではなく

自分にとって大切な何かを持ち〝生き続ける〟こと

それが大切なんだと知ってるからこそ、そう言った何かのために〝生きられる〟のだと

そう〝胸を張って生きていく事〟


そう、つまりは幸福だろうと不運だろうと

人生にとって大切なものとは


今ある現状でも

今までにあった過去でも

これから起こる未来の話でもない・・・


ましてや、、、運命でもない


自分が何を知り、何を大切にして、これから〝どう生きるのか〟

つまりはどう〝あり続ける〟のか〝在り方〟なのだ」


と強く訴えるように話終えた

それから少し落ち着いた口調で


「確かに不運とは残酷だ、その反対にある幸せを知り、それを持たない故に、今以上に苦しむだろう

それでも不運だからと全てから目を背けず

今ある大切な物までも失わないように

今を大切に

〝生活すればいい〟

〝生きていけばいい〟


〝君が不運だからこそ〟本当に大切なものが分かるはずだから

〝君にとって不運だったからこそ〟そこから今ある、本当に大切なものが見えるはずだから


〝本当に心から思ってもらえる親友〟

〝当たり前の日常〟を送るために〝支えてくれる人〟

〝心が疲弊した時に癒してくれる人〟


全部、失った君だから気づくんだ

全部、失った君だから気づけるんだ

不運だったからこそ、幸福でなかったからこそ

それに気づき大切にできるはずなんだ

それを大切に胸にしまって、今を必死に生き続ける事が出来るはずなんだ

それを知って、その大切なものを守って

本当に大事な何かのために生きて行く

そんな生き方をできるはずなんだ


もしそうあり続けられたなら、生き続けられたなら

その不運な人生から沢山の大切を知り、学び歩んだ先が

〝確かに光り輝く未来に繋がっている〟

僕はそう思うんだ

だからやっぱり僕は〝君は幸せ者〟だと確かにそう思ったんだ」


青年は強く気持ちを込めて、そう答えた




太陽そらはその会話を聞いて、すごい衝撃を受けた

それはこれまでの人生が〝不運〟だったから

〝人生なんて上手くいく事はほんの僅かしか無いのだ〟と諦めていた太陽そら


『世界にある〝理不尽〟はどうしようも無いものだ

それに対しては何をしても〝そういうものだ〟と受け入れるしかない

でも、そこから見えてきた〝小さな幸せ〟をどうするか、そこが大切なんだ

それに気づき、これからどう〝ある〟のか

〝在り方がその人の人生を決めるんだ〟』


と教えてくれたからだ

それを青年の話を聞いて悟った太陽そらはただ一言


「そうか、そんな生き方もあったんだ・・・

そんな生き方をしていたら、僕の人生も今よりマシだったのかな…」


と溢した

するとこれまで押し殺して来た、心の奥底にある感情が溢れ出し、目から雫が一つ溢れた


「あれ、おかしいな、なんで涙が出るんだろ」


そう呟く太陽そらの目からは止まるどころか、どんどん涙が溢れ始めてきた

それを横目に青年は空を見上げ


「泣きたい時や

涙が出て来た時は泣いていいんだよ

無理する事ないんだよ」


と呟いた

その一言は太陽そらの押し殺してきた感情の蓋を壊して、一気に溢れかえった様に涙が止まらなくなり、その場に座り込むように泣き叫んだ

そんな太陽そらに視線を向けた青年は、そっと優しく背中をさすった

この青年の優しさに触れて太陽そら


〝人生はいつでもやり直せる

今からでも遅く無いから

ここからやり直せばいいんだよ

今まで辛かったね、頑張って来たね

もう苦しむ事はないんだよ〟


と、そんな事を言われた気がした

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