第四話 〜謝罪〜

「何も知らないで、僕に説教するな!」


太陽そらが強く吐き捨てるように叫んだ

そこまで言われたからか、青年はしばらく黙り込んでしまった

しかし青年は少し経ってから再び口を開いた


「たしかに僕は君のことを知らない、僕が言った言葉も多分今の君には響かないだろう

だから僕に君のことを教えてくれないか」


その放つ言葉は前の説教じみた言葉よりも、優しく太陽そらに寄り添った〝温かい何か〟を感じた

太陽そらはその言葉を聞いて初めて自分から話を始めた


「僕は、これまで人生で不運なことがいっぱいあったんだ」


そう弱々しく吐き捨てた言葉から、知らない間に太陽そらは今までの全てを青年に話していた




両親が過労で〝この世を去った〟こと


始めて一緒に住んでくれた優しい親戚に〝裏切られた〟こと


次に住んでくれた親戚夫婦に〝虐待された〟こと


今一緒に暮らす親戚の桜咲さんと〝あまり上手くいってない〟こと

それもあってか家で〝自分の居場所がない〟と感じていること


学校では目をつけられ〝いじり〟と言う名の〝集団いじめ〟を受けていること

その学校であった〝いじり〟のせいで大切な〝飼い猫のクロ〟を失ったこと




その全てを、苦しく溢れそうな涙を押し殺しながら、自分の中にある想いに蓋をして

どうにか最後までこれまで太陽そらの不運と言う名の人生を語り終えた


それを聞き終えた青年は、隣で少しその話に想いを巡らせていた

しかしすぐ青年はそれをやめると一言


「ふーん、そうだったんだね」


とまるで〝それがどうしたの〟と言わんばかりの〝他人事だから自分は知らないよ〟と言う感じの口調で返事をした


太陽そらは身の上話をした上で、さっきまで青年が話していたあの時の〝言葉〟を思い出し

今の態度が〝人を馬鹿にしているような態度〟であると感じた

だから太陽そら


「なんなんだよ、僕の話は所詮他人事かよ

さっきまであんなに説教じみた話してたくせに!

それとも僕の話は、そんなに興味のないことだったのかよ

聞いてて退屈になるような、どうでもいい話だったのかよ」


と、そう叫ぶように怒りを青年にぶつけた

すると青年は


「そんな事はないよ、ただ僕は君にかける言葉が無いだけだよ

〝辛かったね〟や〝そんな事があったの〟

〝頑張ってきたんだね〟といった言葉なんて、話を聞いた今の僕には掛けられない

話を聞く前だったら

〝辛かった事があったんだろ〟

〝君だって頑張ってきたんだし〟と声は掛けれただろうけど…」


と答える

それから少し間を開けて


「それに君は〝可哀想〟や〝大変だったんだ〟と思われたいのかい」


と聞いてきた

そして青年は続けてこうも聞く


「それに君は僕に、そんな言葉をかけられて救われるのか?

自殺まで決意した君の心はそんな言葉で救われるのか?

たしかに昔の話を聞いた

しかしその話を聞いたからと言って僕は、君の事を全て知ったわけでもない

そんな僕に掛けられた言葉で、君は救われるのかい」


そう言い放った青年の言葉に、確かに太陽そらは同情されたい訳でも〝可哀想〟や〝頑張ってる〟と思われたいわけではない

ましてや、そう言われたい訳ではないと感じた


そんな太陽そらが考え事を終える様子を、確認し終えると再び青年は口を開く

どうやら自分の問いかけに対して、太陽そら自身が考える時間を取ってくれたらしい

そんな優しい気遣いをしながら、考え終えた太陽そらに青年はスラスラと話を進めた


「それに僕の尊敬する人が言ってたんだ


『目の前に心を痛めた人がいて

出来る事はあるのだろうか

人はよく〝気持ちに寄り添ってあげたら〟

と言うが私はそうは思わない

だって本当に理解する事は不可能だから

〝君の気持ちは痛いほど分かるよ〟

と言う言葉を私は言いたくない

そんな無責任なことは言えない


ただ例外もある

親友や恋人、尊敬する人

そう言った人に言われた時だ

つまり信じられる人に言われた時である

その人の言葉は心に響く

信じてるから〝分かる〟と言われると

本当に〝分かってもらえてる〟と感じられる


もう一つは

同じ境遇を背負う人

話を聞くにつれその間に

同じ境遇で共通できる思いが生まれる

いわゆる共通理解や共感である

結果、共通する部分で分かり合えるから

その人の言葉も心に響く』


とね。それを聞いた僕は思ったんだ

人の心や気持ちに寄り添っても

本当に気持ちを理解するのは不可能なんだと…

だから痛いほど分かるなんて言うのは、僕からすると嘘を吐くのと同じだと思ってる

だから〝君の気持ちは痛いほど分かるよ〟

なんて無責任な言葉は言えない、、、

だから僕は君に〝大丈夫〟や〝頑張ったね〟とも言わないんだ、絶対に…

いや、言えなかったんだ

ただ…それであの態度をとったのは、本当にすまなかった

もう少し配慮するべきだった」


そう青年は話の最後に、太陽そらの話を聞き終えた後に取った態度を謝罪どげざをした

太陽そらはそれを見聞きながら、人の心に寄り添うことが、青年にとっては難しい事であることを感じながら青年の取ったあの態度に対して


「いや、そんな気にしないで、確かに不愉快に思ったけどね

君の話を聞いて、君が僕に優しい言葉を掛けなかった理由も、なんとなくだけど分かったから」


と優しい表情で返した

青年はそれを聞いて、今までよりも穏やかな表情を浮かべた

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