第五話 〜遺書〜

昔を振り返っていた太陽そらは、しばらく黙って考え込むように座っていたが、机にあったペンを取ると紙に字を書き始める


〝遺書〟


その二文字を書き終えると同時に、太陽そらは自分の中にある何かが、スッと落ちていくように覚悟が決まった


「よし、決めた

明日あの崖から飛び降りよう!

そして・・・」


そう決意を今一度確認するように口にする

そうすると不思議なもので〝今すぐにでも死ねそうな気がした〟

太陽そらはこうして〝明日、死にに行く覚悟〟を決めた


そこまで自分で決めると、手がまるで川の流れのようにスラスラ動いた

結果的に書き始めた〝遺書〟はものの数十分程度で書き終わった


内容は〝桜野刑事〟や〝桜咲さん〟〝親友〟への感謝について書いていた

遺書自体書いた事もないから、書き始めは少し迷ったが、最終的にはこのように書き終えた



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〜遺書〜


私はこれまで多くの人に支えられ、見守られて生きてきました

この度、私 空道くどう 太陽そらは自殺する事を決めました


お世話になった桜野さくらの まこと刑事に至っては本当に申し訳なく思います


覚えておられますでしょうか、親戚の夫婦に虐待された時の事を・・・

あの時は助けて頂き、本当にありがとうございました


あの時は心の底から嬉しく、言葉では言い表せないほどの感謝でいっぱいでした

一番辛い時に、地獄から〝すくい上げて〟くれたのは他でもない桜野刑事さんでした

本当にありがとうございました



お世話になった桜咲さくらざき海晴かいせいさん、今まで一緒に過ごしてくれて、本当にありがとうございました


出会った始めの時はすごく明るく接して頂き、とても嬉しかったです〈あの時は〝おじさん〟と言ってごめんなさい〉


心に傷を負った僕は、他人と触れ合うことすら恐れていました

そんな私に干渉せず見守り続けて今日まで居てくれたこと、僕にはとても救いになっていました


また毎日仕事が忙しくても、食事の時だけは一緒に食べるようにしてくれた事、本当はとっても嬉しかったです

今まで通り生活出来るように、側でずっと〝守って〟くれたのは桜咲さんでした

これまでありがとうございました



最後に親友の2人

火海ひすい ふう

山道さどう ゆき


二人とはこれまで、いっぱいバカしたし、学校では〝いじり〟の時に支えてくれました

二人には返せないほどの恩でいっぱいです


「ふう」は…よく分からない事もあったけど

それでも一番優しくて、誰よりも僕を陰で支えてくれたのは君だった。すごく感謝してるよ


「ゆき」は、冷静のように見えて意外に感情豊かだったのが、始めの頃はすごく驚きました

でも〝ゆき〟が一番感情を荒げるのが、誰かのためだってこと知ってたよ

僕のことでもいっぱい怒ってくれたし、共に泣いてもくれた、、、本当にありがとう


二人はね、僕の中で一緒に〝重ニ(おもに)を背負って〟くれた大切な仲間でした

これまで、一緒にいれたこと嬉しかったです

本当にありがとう



まだまだ言いたい事はいっぱいあるけど、もうここで終わっておくね


お世話になった皆様

これまでどうも、ありがとうございました


西暦二〇四五年七月八日

空道くどう 太陽そら

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『・・・こうして書いた物を振り返って、見返して見ると、僕なりに良いものができたと思う

わざと文字を変えてみるなど工夫も入れてみたり遊び心があって…』


書き終えた遺書を読み返した太陽そらは、そんな事を思いながら

少し悲しいような寂しいような気持ちで胸がいっぱいになり、しばらく自分で書いた遺書を見つめていた




それからふと時計に目を向けると二十二時半過ぎを示していた


「もうそろそろ寝る時間だ」


時計を見てそう呟くと、とりあえず書いた遺書は、誰にも見られないように机の中にしまった

片付け終えて寝間着に着替える頃には、二十三時近くで自然と眠たくなる時間になっていた


「眠い、、、仕方ないな、今日はもう休むか」


目をこすり、手を伸ばしながらあくびをしてそう呟くと布団に入った

布団に入るとそのまま太陽そらは、呑み込まれるように眠りに落ちるのだった

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